就業規則
2025.03.26
「残業手当」と「時間外手当」の違い
1. はじめに
働いていると「残業手当」や「時間外手当」という言葉をよく耳にします。どちらも”残業に対して支払われるお金”というイメージがあります。しかし、厳密にはどうでしょうか?本記事では、両者の違いや正しい意味について、専門知識がなくても理解できるように、わかりやすく説明していきます。
2. 「残業手当」と「時間外手当」の一般的な意味
まず最初に、それぞれの言葉の一般的な意味を確認してみましょう。
- 残業手当:定時(通常の労働時間)を超えて働いた時間に対して支払われる手当の総称。
- 時間外手当:法定労働時間(原則1日8時間・週40時間)を超えて働いた分に対する手当。
この2つは似ているようで、実は「基準となる時間」が異なっています。
3. 用語の混同が起こる理由
多くの人がこの2つの言葉を混同して使ってしまうのには、いくつかの理由があります。
- 会社によって呼び方が異なる
- 就業規則に明確な定義がない場合がある
- 労働者自身が正確な労働時間のルールを知らない
そのため、「残業手当」と「時間外手当」が同じ意味として使われている場合が多くあります。
4. 法律上の定義と違い
労働基準法では、「時間外労働」に対して割増賃金を支払うよう定めています。
- 時間外労働:法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超える労働
- 割増率:25%以上(深夜・休日などでさらに増える)
法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超える労働をした場合に支払われるのが「時間外手当(割増賃金)」です。
5. 労働基準法における時間外労働とは?
労働基準法では、以下のように時間外労働を定義しています。
- 1日8時間、1週40時間を超える労働
- 労使協定(36協定)を結んでいる場合に限り、時間外労働が認められる
そのため、たとえば会社の定時が「9時~17時(休憩1時間)」=1日7時間労働の場合、17時~18時の労働は会社の就業規則上は「残業」でも、労働基準法上は「時間外労働」ではありません。
6. 残業手当=時間外手当?それとも違う?
ここがこの記事のポイントです。
- 「残業手当」は、会社の所定労働時間を超えた労働に支払われる。所定外残業手当とも言われる。
- 「時間外手当」は、法定労働時間を超えた労働に支払われる。法定外残業手手当とも言われる。
つまり、法的に支払わなければならないのは「時間外手当」であり、「残業手当」は会社ごとのルールに基づく手当である場合もあります。
7. 深夜労働や休日労働との違い
残業手当・時間外手当とよく一緒に語られるのが、深夜労働や休日労働です。
- 深夜労働:22時~5時に働くこと → 割増率25%以上
- 休日労働:法定休日に働くこと → 割増率35%以上
これらの手当も「割増賃金」に含まれますが、「時間外手当」とは区別されます。
8. 就業規則や労働契約における表現の違い
企業によって、同じ意味で「残業手当」と「時間外手当」を使っている場合もあれば、明確に区別して使っている場合もあります。
- A社:残業手当=時間外手当
- B社:残業手当=所定時間外手当、時間外手当=法定時間外
自分の会社の就業規則や労働契約書で、どう定義されているかを確認することが大切です。
9. 企業が使う「残業手当」「時間外手当」の具体例
例1:1日7時間勤務の企業
- 定時:9時~17時(休憩1時間)
- 17時~18時:残業手当(法定内)
- 18時以降:時間外手当(法定外・割増25%)
例2:1日8時間勤務の企業
- 定時:9時~18時(休憩1時間)
- 18時以降:時間外手当(割増25%)
このように、企業の所定労働時間によって支給される手当の名称や金額が異なります。
10. 正確な理解の必要性と労働者への影響
労働者が「何時間働いたか」「その時間は法定外かどうか」「割増率は正しいか」などを正確に理解することは、自分の権利を守る上でとても重要です。
誤解していると、以下のようなリスクがあります。
- 本来もらえるはずの割増賃金を受け取れない
- 違法な働かされ方に気づけない
11. 企業の視点から見た注意点
企業側も、これらの用語を曖昧に使ってしまうと、以下のようなトラブルにつながります。
- 労働基準監督署からの是正勧告
- 労働者とのトラブル(未払い残業代の請求など)
そのため、
- 就業規則で明確に定義する
- きちんと労働基準法を勉強する
- 分からなければ、社会保険労務士などの専門家に相談する
- 労働者への説明責任を果たす
といった取り組みが必要です。
12. よくある質問Q&A
Q1. 残業手当がついているけど、割増率が書かれていません。大丈夫?
法定時間外の労働には、最低25%の割増が必要です。明記がなくても直ちに違法ではありませんが、確認が必要です。
Q2. 残業代込みの年俸制でも時間外手当はもらえますか?
年俸制でも、実際に時間外労働が発生した場合は別途支給が必要です。年俸制といえども、きちんとした固定残業を月給に引き直して計算していなければなりません。そうしなければ、違法になることが多くあります。
13. まとめ
「残業手当」と「時間外手当」は似ているようで、法的には異なる意味を持つことがあります。
- 残業手当=所定労働時間を超えた労働に支払う
- 時間外手当=法定労働時間を超えた労働に対する割増賃金
労働者としては、自分の働いた時間が「法定外」なのか「所定外」なのかを理解し、それに対して正当な手当が支払われているか確認することが大切です。
企業としても、用語の使い分けを明確にし、違法になることを避ける必要があります。
この記事の監修
社会保険労務士法人堀下&パートナーズ
社会保険労務士 堀下 和紀
お客様に寄り添い、法律知識だけでなく相手の立場を理解し、本当に求められる最適な解決策をご提供することを信念としています。
また、特定社会保険労務士として労働トラブルの解決に尽力し、経営者の経験を活かして実務と理論の両面からサポート致します。
略歴
1971年 福岡県生まれ
1995年 慶応義塾大学商学部卒業 明治安田生命保険相互会社勤務
(銀座支社・契約管理部・沖縄支社~1999年)
1999年 エッカ石油株式会社勤務
2005年 堀下社会保険労務士事務所
2021年 社会保険労務士法人 堀下&パートナーズ設立
主な書籍
・「労務管理」の実務がまるごとわかる本(日本実業出版社)
・ 社労士・弁護士の労働トラブル解決物語(労働新聞社)
他 14冊

社会保険労務士 堀下 和紀
主な活動
セミナー講師/テレビ出演/書籍、記事執筆