手続き
2024.11.06
会社役員の社保加入は義務? 役員報酬が支払われる会社役員に関する取扱い、手続きや保険料など、役立つポイントをわかりやすく解説
加入要件や保険料はどうなる? 会社役員の役員報酬と社会保険に関する取扱いや手続きを解説
2024年10月からの法改正で、社会保険の適用が拡大されることになりました。
対象となるのは、厚生年金の被保険者数が「51人以上」の事業所です。
一定の要件を満たす有期雇用の従業員やパート従業員(パートタイム労働者・アルバイト等)も、社会保険への加入が必要となり企業には適切な対応が求められます。
本日は、少し視点を変えて「会社役員の社会保険」に注目し、解説していきます。
目次
- 社会保険各制度の概要のおさらい
- 会社役員とは?
- 会社役員と従業員の社会保険適用の考え方の違い
- 給与と賞与の違い
- 会社役員の加入義務
- 役員就任時の手続き
・ 加入条件の具体例
・ 非常勤役員の社会保険加入の要件 - 社会保険の事務手続き
・ オンラインでの社会保険加入手続き - 法人役員と個人事業主の社会保険の違い
- よくある質問
・ 会社役員の場合、社会保険の加入は義務?
・ 法人Aと法人Bの両方から役員報酬が支給される場合の保険料はどうなる?
・ 個人事業主も健康保険と厚生年金に加入できる? - まとめ
社会保険各制度の概要のおさらい
ここで簡単に社会保険の各保険制度の概要をおさらいしておきましょう。
社会保険は、国が提供する公的な保険制度です。
主に医療費や年金、失業時の生活支援など、それぞれ目的が異なります。
具体的には、健康保険、介護保険、厚生年金保険、労災保険、雇用保険など5種類の保険制度があります。
これらの保険は、労働者やその家族が病気や怪我、失業などのリスクに対して経済的なサポートを受けるための制度が設けられています。
本記事では、健康保険・介護保険・厚生年金保険の3つの保険制度をまとめて 「社会保険」と定義し、解説を進めていきます。
■ 健康保険
診察や治療にかかる費用など医療費の一部を保険でまかなうことができます。
また、傷病や出産等により就労不能となり休職した場合に、被保険者とその家族の生活を保障するための制度です。
その他にも出産や死亡についての給付も行われます。
■ 介護保険
健康保険と同様に、介護サービスを受けるための費用を保険でまかなうことができます。
老後に介護や支援が必要と認定された場合は、その認定された等級(レベル)に応じて、介護サービスを受けることができるようにするための制度です。
40歳以上64歳以下は、介護保険への加入が義務とされています。
■ 厚生年金保険
老後の年金の他、病気やケガにより障害が残ってしまった場合や、従業員(加入者)が死亡した場合に、残されたご遺族の生活を保障してくれる年金制度です。
社会保険は、加入者の健康的な生活と将来の生活を支えるための重要な役割を担う保険制度です。
新たに会社を設立したときをはじめ、会社を経営していくうえでは、各社会保険制度についての理解や、保険料に関する正しい知識を持ち、適切な対応をしなければなりません。
会社役員とは?
会社役員とは、株式会社などの法人において取締役や監査役といった役職に就く人物を指します。
会社役員の主な役割は、会社の経営方針の決定や業務執行の監督、組織運営の最終意思決定に関わることです。
こうした役職に就く役員は、一般社員と異なり、「役員報酬」として給与を受け取ります。
会社役員としての責任は重く、その報酬も一般の社員とは異なる取り扱いが必要とされます。
会社役員と従業員の社会保険適用の考え方の違い
「会社役員」と「従業員」は、労働形態や報酬基準が異なります。
従業員は、労働(雇用)契約に基づき社会保険に加入し、その保険料は毎月支給される給与を基準として算出されます。
一方、会社役員は、役員報酬に基づいて社会保険料が算出されます。
社会保険料は、毎月、固定的に支給される報酬額に応じて保険料が決定される仕組みになっています。
保険料は、会社と従業員(加入者)がそれぞれ同額を負担(折半)します。
なお、会社役員または従業員のどちらであっても、会社と加入者本人の双方がそれぞれ社会保険料を負担することに変わりはありません。
給与と賞与の違い
社会保険制度において、報酬と賞与の区別は非常に重要です。
報酬とは定期的に支払われる役員報酬等を指し、月々一定額が支給されるのが一般的です。
対して賞与は、年末など特定のタイミングで一時的に支払われるものを指します。
報酬と賞与は、社会保険料の算定基準上、取り扱いが異なります。
報酬は、月ごとの標準報酬月額の算定基礎となり、その金額に応じて健康保険料や厚生年金保険料が決定されます。また、報酬には基本給の他に通勤手当や住宅手当などの各種手当も含まれることがあります。
一方で賞与は、その金額に応じて一定の保険料率が掛けられます。賞与の支給による健康保険料と厚生年金保険料も、報酬と同様に法人と役員とで折半して負担します。このため、賞与が多額であれば、その分だけ社会保険料の負担も大きくなることが考えられます。
さらに、賞与は特定の成果や業績に対する報酬として支給されるため、法人の経営状況や会社役員の功績によりその額が変動することが多いです。役員報酬の計算や税務処理の際には、この報酬と賞与の違いを正しく理解し、適切に処理することが求められます。
会社役員の加入義務
具体的な加入義務としては、まず、会社(事業所)として加入義務があるのかを判断します。
原則として、会社(法人)の場合、社会保険への加入は義務となります。
会社設立時点で「適用事業所」に該当するとされるため、住所地の年金事務所で社会保険の新規適用の手続きを行わなければなりません。
なお、下記に該当する場合は、社会保険の適用事業所に該当しませんのでご注意ください。
■ 従業員数5人未満の個人事業
■ 農業、漁業、サービス業(飲食、娯楽、理美容業等)の個人事業
(従業員数を問わず)
役員就任時の手続き
法人設立に伴い役員に新たに就任したときは、社会保険の加入義務が発生します。
無報酬だった役員に役員報酬が支払われることとなったときも、通常、社会保険の加入義務が発生します。
なお、従業員が新たに役員へ就任する場合にも手続きが必要となりますが、基本的に従業員と会社役員に関する社会保険資格取得・喪失等の手続方法に大きな違いはありません。
まず、役員就任が決定した際には、辞令などの書類を準備します。
併せて、役員就任によってもたらされる報酬形態の変更や役割の明確化も行います。
これにより、役員就任前後の報酬の違い、新しい職務上の責任や権限等を明確にすることでトラブルを防ぐことができます。
次に、役員就任や役員報酬の改定によって報酬額が変動する場合には、変更後の報酬額を基に標準報酬月額を再計算することが必要となります。報酬額の変動が保険料に影響するため、健康保険料や厚生年金保険料を新たに計算し直し、正確な納付額を導き出します。
新しい社会保険料を給与計算システムに反映させる際は、適切なタイミングで必要な事務手続きを処理すること、社会保険料の改定について正しく理解することも非常に重要です。
役員報酬の増額や減額を検討する際は、あらかじめ社会保険の適用条件や保険料負担をシミュレーションしておきましょう。社会保険料は役員報酬が高ければ高いほど、その負担も増すことになります。
企業が役員報酬をいくらに設定するか検討する際には、こうした社会保険料の増減等の側面も考慮することが求められます。
加入条件の具体例
会社役員の社会保険加入の必要性は、会社役員ごとの業務形態や報酬額等、その実態を踏まえて判断することになりす。原則として、役員や法人の代表者であっても、法人から労務の対償として報酬を受けている者は、法人に使用される者として被保険者の資格を取得するものとされています。(昭24.7.28 保発74)
会社役員の社会保険加入の必要性は、個別具体的な実態に基づき判断しなければならず、決して簡単なものではありません。非常勤役員や臨時に報酬を受け取る会社役員でも、一定の要件を満たす場合には入義務が生じることがあります。
非常勤役員の社会保険加入の要件
会社役員の場合は単純に「常勤・非常勤」の身分のみをもって加入・非加入を判断するのではなく、所定の条件を満たす場合に社会保険に加入する義務が生じるのは先にお伝えしたとおりです。
例えば、定期的に出社して会議に参加する、重要な経営判断に関与する会社役員や、支払われる報酬額が常勤役員と比べて遜色ない場合等には、社会保険加入の対象とされる可能性があります。
これに対して、ほんの数回の会合への出席や、報酬が特定の業務に対してのみ支払われる場合など、臨時的・不定期な業務の場合には、通常、加入義務が発生しないものと判断されます。
大切なポイントは、「常勤 / 非常勤」という名称にとらわれることなく、その実態を複数の判断基準に当てはめて、会社役員の社会保険加入義務の有無を判断するということです。
具体的には、次のポイントで判断します。
・会社に定期的に出勤する役員であるか
・他の会社と兼務していないか
・役員会等に出席しているか
・会社役員への連絡調整または職員に対する指揮管理に従事しているか
・求められた時だけに意見を述べる程度の立場ではないか
・責任や職務の内容に照らして、相応しい報酬が支払われているか
判断が難しい場合には慎重を期すために、お近くの年金事務所や、顧問の社会保険労務士事務所へ相談するようにしましょう。
社会保険の事務手続き
社会保険の事務手続きは、会社の管理部門、労務担当者や提携する社労士事務所によって行われます。
一般的には年金事務所の窓口で書類を提出する他、郵送またはオンラインの電子申請システムを通じて届出します。
手続の際には、役員報酬額の証明となる資料の提出も求められることが多く、正確な報酬額の報告や書類の整備が必要不可欠です。社会保険の手続きが適切に行われていないと、将来的な年金受給や適切な医療を受けることができないことや、高額な医療費の負担などさまざまな部分にその影響がおよんでしまいます。
また、後に未納保険料が発生するリスクや法律違反を指摘される可能性があるため、社会保険に関する手続きを正しく理解し、適切に手続を行わなければなりません。
オンラインでの社会保険加入手続き
オンラインでの社会保険手続きは、効率的かつ便利な方法として広く利用されてきています。
オンラインで行うことによって、時間と労力の大幅な節約が可能となりました。
その他の利点として、書類の保存や管理、共有する際の便利さが挙げられます。
電子申請システム(e-Gov)を利用すれば、すぐにオンラインでの手続を始めることができます。
システムへのログインには、企業または管理者のIDとパスワードが必要です。
ログイン後、必要な従業員情報等をオンラインフォームに入力し、添付書類をアップロードします。
入力を終えたら、入力内容に不備がないかエラーチェック機能を活用することにより、修正が必要な場合には即時に対応できます。
手続きの進捗状況も、電子申請システム上でリアルタイムに確認できるため、事務担当者も安心して手続きを進めることができます。
【e-Gov】
https://www.e-gov.go.jp/
【マイナポータル】
https://myna.go.jp
法人役員と個人事業主の社会保険の違い
会社役員と個人事業主では、社会保険制度における取り扱いに違いがあります。
法人役員は、法人が社会保険の適用事業所であるため、健康保険や厚生年金保険に加入する義務が発生します。役員報酬が定期的に支払われ、その額に基づいて社会保険料が計算されるため、企業と役員で保険料を折半して納付します。
一方、個人事業主は基本的に社会保険に加入する義務がなく、国民健康保険や国民年金に自ら加入する形をとります。加入者は、自身の国民年金および国民健康保険料を全額負担しなければなりません。
保険料は、前年の1月~12月の所得等に基づいて計算されるため、収入が不安定な場合には減額されることもあります。個別のケースごとに判断は異なりますが、会社役員と法人が折半して負担する社会保険料と比較して、割安となるケースもあります。
また、その給付内容も異なります。
例えば、健康保険には、傷病手当金や出産手当金の支給がありますが、国民健康保険にはそれに代わる制度はありません。また、将来的な年金受給額には大きな差が生じることがあります。
なお、個人事業が法人化した場合には、厚生年金や健康保険などの社会保険に加入する義務が生じます。つまり、会社にも健康保険料および厚生年金保険料を納付する義務が発生します。法人化によって社会保険料の金銭的負担が増える可能性はありますが、その分受けられる保険給付も拡充されることは利点のひとつと言えるでしょう。
よくある質問
会社役員や経営者にとって、役員報酬と社会保険に関する疑問は尽きません。
特に、社会保険料の算定または改定の方法や加入義務の有無などについては、多くの経営者が関心を持つポイントです。以下では、Q&A形式で、役員報酬と社会保険に関する具体的なご質問へお答えします。
会社役員の場合、社会保険の加入は義務?
一般的に、会社役員も従業員と同様に一定の条件を満たせば社会保険に加入する義務があります。
役員報酬が0円(支給されない)、会社に出勤しない、役員会へ出席しない等、実態として会社の経営に参画しない場合を除いて、会社役員も社会保険への加入が義務付けられます。
会社役員の常勤・非常勤を問わず、一定の条件を満たす場合には社会保険の加入義務が生じます。
法人Aと法人Bの両方から役員報酬が支給される場合の保険料はどうなる?
法人Aおよび法人Bのそれぞれで、社会保険の加入が義務となります。
複数の事業所で社会保険に加入する場合は、被保険者(質問のケースでは会社役員とします)が、主(メイン)とする会社を選択するための届出(「被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」)を提出します。
届出により、「二以上勤務者」となります。
なお、健康保険証は主(メイン)とした会社の健康保険証が発行されます。
二以上勤務者の社会保険料は、通常とは異なる計算方法により算定されます。
具体的には、法人Aおよび法人Bから支払われる役員報酬を合算し、法人Aから支払われる金額と、法人Bから支払われる金額に基づき按分して決定されます。
【日本年金機構】(詳細はこちら)
https://www.nenkin.go.jp/faq/kounen/kounenseido/jigyonushi/niijokinmu.html
個人事業主も健康保険と厚生年金に加入できる?
健康保険および厚生年金保険の加入が、法律で義務ではないとされる個人事業でも、一定の要件を満たし、申請を行った場合には、健康保険と厚生年金保険の適用事業所として社会保険に加入することができます。(これを「任意適用申請」といいます)
任意適用を受けた場合は、従業員全員が加入することとなり、適用事業所と同じ取り扱いがなされます。
しかし、任意適用が認められた場合でも個人事業主は、健康保険と厚生年金に加入しないので注意が必要です。
(健康保険および厚生年金の被保険者になることはできません。)
よって、個人事業主は「国民健康保険」と「国民年金」の加入者として保険料を全額自己負担する形になります。
まとめ
原則的には、会社役員は社会保険の加入の対象となりますが、非常勤役員などで一定の要件に該当する場合には、社会保険の対象外となるケースもあります。会社ごとにその状況は様々です。
社会保険の保険料率は、会社の負担分として約15%、個人負担率も同じく約15%で、合算するとその割合は約30%となります。役員報酬を増減する場合には、社会保険料も連動して増減することについても留意が必要です。
こんなときどうするの?と疑問を抱いた方や、より具体的なご質問がしたい方も少なくないと思います。そのようなときは、ぜひ社会保険労務士等の専門家へ相談しましょう。