労働法務
2020.10.26
求人票より低い労働条件での労働契約の締結はできるのか?
- 求人票に記載した労働条件より、低い労働条件で労働契約を締結しました。これに対して、「求人票に明示した条件と低い労働条件との差額を補償せよ」との要求が来ました。応じる必要があるでしょうか?
ありません。
八州測量事件(東京高判昭58・12・19)は、このような場合における労働者からの差額賃金請求を否定しました。①求人票記載の賃金はあくまで『見込み』額としての趣旨であることが文言上も明らかであること、②賃金改訂が例年4月頃に一斉に行われるという我が国における労働事情に鑑みても、求人の段階で確定的な賃金額を明示することは困難であること、また③求人とは、法的にはあくまで申し込みの誘引にすぎないものであり、労働条件を最終的に確定する性質のものではないこと、が挙げられています。
従って、求人票の賃金額明示の趣旨が、上記のような「見込み額」としての明示である場合は、社員からの差額賃金請求は否定されます。
ただ、求人票の賃金額の明示の趣旨が、「最低額保証を行ったもの」と認定されてしまえば、差額賃金請求が認められる可能性も相当程度存在します。その意味で、求人票の記載は慎重に行うべきです。
また、仮に「最低額保証を行ったものとまでは認められない」場合であっても、「合理的な理由なく賃金を見込額より相当に引き下げた場合」には、差額賃金請求とは別に不法行為として慰謝料請求が認められる可能性があります。特に、募集段階で既に見込額を支払う意思が全くなかったと認められた場合には、その可能性が極めて高くなります(日新火災海上保険事件-東京高判平12・4・19参照)。
いずれにしても、求人票段階でも、実際に支払い可能な合理的な賃金額を明示しておき、その食い違いが出来るだけなくなるように努めることが重要です。
求人票より低い労働条件での労働契約の締結はできるのかについては、沖縄の社会保険労務士法人 堀下&パートナーズにご相談ください。