労働法務
2020.11.10
「性格がやや暗い」との理由で、内定を取消しできるか?
- 採用内定者の取消しを行おうと思っています。最終面接で、「性格がやや暗い」という危惧があるものの採用内定を出してしまいました。しかし、その危惧が入社までぬぐえないので、内定取消ししたいのですが、できるでしょうか?
いいえ。内定取消しは違法とされ、できません。
大日本印刷事件(最二小判昭54・7・20)では、「採用内定通知のほかには労働契約締結のための特段の意思表示をすることが予定されていなかった」場合には、その採用内定は「始期を大学卒業直後とし、それまでの間、本件誓約書記載の…採用内定取消事由に基づく解約権を留保した労働契約が成立したと解するのを相当」とするものと判断されています。
本件でも、採用内定通知後に何の手続きもなく、入社式を迎えることとなっていたことからすれば、「採用内定」が「始期付解約権留保付労働契約」であると認定される可能性は高いでしょう。
前掲判例は続けて、「内定取消しの為には、『①採用内定通知書や誓約書に記載された取消事由に該当する事情が発生したこと』を前提とし、『②その事情が、解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものであること』が必要である」としました。
そして、本件と同様に「内定時からグルーミーな印象であり、不適格と思われたが、その後に打ち消す事情が発生するかもしれないと思って採用したが、その後それを打ち消す事情がなかったため、取り消すことにした」という会社側の主張を、「当初から調査を尽くせば適格性を判断できたにも関わらず、不適格と思料しつつ一旦内定を出して、その後取り消すということは認められない」としました。
この判例の趣旨からすれば、本件においても裁判になれば会社側が敗訴する可能性が極めて高いものといえます。
少なくとも内定を出したときから具体的に事情の変更がないような本件のような場合においては、内定取り消しが適法とされる余地はないものと思われます。
仮に、事後の経過等により、取消しの余地を認めておきたい場合は、内定ではなく(会社と労働者双方にとって拘束力の弱い)「内々定」となるよう、「後日正式な採用内定通知を送ることを予定しておく」などの、制度的なケアを最低限行っておくべきでしょう。ただ、内々定の場合においても、恣意的な破棄が損害賠償責任を生ずる余地はあります。
結局、内定にせよ、内々定にせよ、「後で取消せばよい」という安易な気持ちで行って、労働者に対して入社への期待を持たせるのは、労務管理の視点からも、また人事戦略の面からも真に慎まれるべきことといえます。
内定取消しについては、沖縄の社会保険労務士法人 堀下&パートナーズにご相談ください。