労働法務
2021.09.09
年次有給休暇の取得理由をウソついた場合、懲戒処分が可能か?
- ある社員が病気を理由に年次有給休暇を取得していました。しかし、実際は病気ではなく旅行していたことが判明しました。そこで、虚偽の届出を理由に懲戒処分(戒告)を試用と思いますが、よいでしょうか?
はい。懲戒処分が可能です。戒告が相当でしょう。
年次有給休暇(以下「年休」といいます。)は、使用者が、その雇入れの日から起算して六ヵ月間継続勤務し全労働日の8割以上出勤した労働者に対して一定数の有給休暇を与えなければならない制度です(労基法39条1項)。
このように、会社は、社員が請求(指定)した時季に年休を付与しなければなりません。ただし、社員が請求(指定)した時季に「事業の正常な運営を妨げる場合」においては、その時季の年休取得を拒否して、他の時季に年休を取得させることができます(労基法39条5項)。なお、社員が年休の時季を指定する権利を「時季指定権」、会社が社員の指定した時季の年休の付与を拒否する権利を「時季変更権」といいます。
そして、年休の利用目的は労基法の関知しないところであり、休暇をどのように利用するかは使用者の干渉を許さない労働者の自由です(年休自由利用の原則、全林野白石営林署事件-最二小判昭48・3・2)。
したがって、理由目的を考慮して年休を与えないことは、年休自由利用の原則に反して許されません。
もっとも、会社は年休の届出を受けたとき、これが事業の正常な運営を妨げると認めれば、時季変更権を行使できますが、その場合でも届出事由を考慮して時季変更権の行使を差し控えることもあることから(電電公社此花局事件-最一小判昭57・3・18)、取得理由には真実を記載することが必要であり、取得理由の虚偽記載は懲戒処分事由に該当します(古河鉱業高崎工場事件-東京高判昭55・2・18)。
したがって、会社は、年休の取得理由に虚偽の理由を記載した社員に対し、懲戒処分を下すことができます。
ただし、年休の取得理由の虚偽記載だけで懲戒解雇処分まで下すと、懲戒処分の相当性(労契法)を欠き無効となる可能性が高いです。仮に虚偽記載だけですと、過去の処分歴、本人の反省の程度にもよりますが、戒告程度が相当と思われます。
他の懲戒処分事由、過去の処分歴、本人の反省の程度を総合考慮して、懲戒処分の内容を決定すべきです。
年次有給休暇については、沖縄の社会保険労務士法人堀下&パートナーズにご相談ください。