労働法務
2021.09.24
年次有給休暇の取得理由を申請書に書かせることはできるか?
- 当社の年次有給休暇の申請書には取得理由を書かせる欄があります。そもそも、取得理由で年休は断れないので、取得理由を書かせること自体、違法なのではないでしょうか?
年次有給休暇(以下、年休といいます)の取得理由を書かせることは違法ではありません。
六ヵ月間継続勤務し全労働日の8割以上出勤した労働者に対して一定数の有給休暇を与えなければならない制度です(労基法39条1項)。
このように、会社は、社員が請求(指定)した時季に年休を付与しなければなりません。ただし、社員が請求(指定)した時季に「事業の正常な運営を妨げる場合」においては、その時季の年休取得を拒否して、他の時季に年休を取得させることができます(労基法39条5項)。なお、社員が年休の時季を指定する権利を「時季指定権」、会社が社員の指定した時季の年休の付与を拒否する権利を「時季変更権」といいます。
それでは、年次有給休暇申請書に年休の取得理由記載欄を設けることは許されるのでしょうか。
確かに、年休の利用目的は労基法の関知しないところであり、休暇をどのように利用するかは使用者の干渉を許さない労働者の自由です(年休自由利用の原則、全林野白石営林署事件-最二小判昭48・3・2)。
したがって、利用目的を考慮して年休を与えないことは年休自由利用の原則に反して許されません。
もっとも、「事業の正常な運営を妨げる場合」には該当するが、年休の利用目的・理由によっては年休の時季変更権の行使を差し控えるという、労働者に有利な方向で考慮するために、会社が年休の利用目的を問うことは許されます(電電公社此花局事件-最一小判昭57・3・18)。また、年休の請求が競合した場合、例えば発熱した子を病院に連れていくという目的のための時季指定には時季変更権を行使せず、具体的な事情や必要性を明らかにしなかった組合活動目的の時季指定に対しては時季変更権を行使することを適法とされています(津山郵便局事件-広島高岡山支判昭61・12・25)。
以上の裁判例からすると、年次有給休暇申請書に年休の取得理由の記載欄を設けること自体は年休自由利用の原則に違反せず許されます。
年次有給休暇申請書に年休の取得理由の記載欄を設けながら、その取得理由を考慮して年休を与えない運用は年休自由利用の原則に違反し、会社が損害賠償責任を負うことになりかねません。
裁判例(弘前電報電話局事件-最二小判昭62・7・10)では、「勤務割を変更して代替勤務者を配置することが可能な状況にあるにもかかわらず、休暇の利用目的のいかんによってそのための配慮をせず、時季変更権を行使することは、利用目的を考慮して年次有給を与えないことに等しく、許されない」と判示しています。
したがって、「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当しないときは、記載された取得理由のいかんを問わず、年休を取得させる運用を心がけましょう。
年次有給休暇については、沖縄の堀下&パートナーズへご相談ください。
「突然の年次有給休暇の申請は断れるか?」についてはこちらをご覧ください。