労働法務
2021.10.29
賃金カットの同意の有効性
- 会社が業績不振で、従業員一律20%の賃金カットを従業員の同意を得て行おうとおもっています。その際、「従業員一律20%の賃金カットを行います。異議のある者は2週間以内に会社に対して書面で申し立てること」と通知しようとおもっています。いいですよね?
いいえ。認められない可能性が高いです。
本件のように、経営上の必要に応じて、一部の高給社員に対する減額を行いたい、という要望はよく聞かれるところです。そして、一部の社員に対する賃金減額を行うためには、対象となる社員から同意を得ることが必要となります。
類似の裁判例(更生会社三井埠頭事件-東京高判平12・12・27)は、「社員から黙示的な同意を得たというだけでは足りない」としています。すなわち、同裁判例は「就業規則に基づかない賃金の減額・控除に対する労働者の承諾の意思表示は、賃金債権の放棄と同視すべきものであることに照らし、それが労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときに限り、有効である」と判示しています。
同裁判例は続けて「外形上、(社員らは)・・・黙示に承諾したものと認めることが可能である」としながら、会社が減額の根拠を十分に説明しなかったこと、会社が明示的な承諾を求めようとしなかったことに加え、20%の減額という不利益の大きさに鑑みれば各層の従業員に応分の負担を負わせるのが公平であると考えられることなどから、当該承諾が「自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するということもできない」と判断しているのです。
判例の趣旨からすれば、本件においても会社側が敗訴する可能性が高いものといえます。
どうすればいいのか?
一部社員に対する賃金減額は同意を得たとしても、その同意の有効性が厳しく審査されます。経営上の必要に迫られて賃金減額を行う際には、次のポイントを抑えることが重要です。
①明示的な同意を得てください。つまり、新しい労働条件が記載された労働契約書に署名捺印を求めてください。
万が一、明示的な同意が得られなかった場合は、②賃金減額の理由について十分に説明してください。そして、改めて③社員の明示的な承諾、つまり労働契約書に署名捺印をしてもらう努力をしてください。改めて④より多くの社員にまんべんなく負担させているか、全体の制度設計も再考してください。
裁判例(スカンジナビア航空事件-東京地決平7・4・13)では、経営再建策としての労働条件の変更を伴う再雇用等について、応じない社員の解雇が有効された例も存在します。賃金減額の説得に応じない社員に対しては、経営再建のためには整理解雇もあり得ることを説明し、解雇回避策の一環としての賃金減額案でもあると説得してみることもよいでしょう。
社員に対する労働条件の不利益な変更は、黙示の合意ではなく、明示の合意を得ることがポイントとなります。
賃金カットの同意の有効性については、沖縄の社会保険労務士法人堀下&パートナーズにご相談ください。
業績悪化による25%の一律賃金カットは有効か?については、こちらをご覧ください。