労働法務
2021.12.09
労災疑いのあるうつ病の社員を解雇してよいか?
- 社員が、仕事に対するプレッシャーからうつ病に罹り、労災の疑いはあるものの、私傷病休職扱いとしました。 1年間の休職期間を経ても、うつ病は回復しないため、休職期間満了に伴い解雇を言い渡しました。その社員から、「会社の責任でうつ病になったから解雇は無効です」「私のうつ病は会社の責任による労災ですから、休職期間中の給料も支払ってください」と請求してきました。どうすればよいのでしょうか?
会社の解雇は、労基法19条1項本文の解雇制限に違反して無効である可能性が高いです。
労基法19条1項本文は、「使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間・・・は、解雇してはならない」と定めています。仮に、今回うつ病を罹患した社員も「業務上の疾病」(すなわち「労災」である)と評価されると、休職期間満了に伴う解雇も労基法19条1項本文の解雇制限に違反して無効となります。そもそも、今回のうつ病が労災である場合、私傷病休職の規定が適用されないと可能性も高いです。裁判例(東芝(うつ病・解雇)事件-最二小判平成26・3・24)でも、本件と類似の事案において、うつ病が業務に内在する危険が現実化したものとして、休職期間満了に伴う解雇が労基法19条1項本文に違反して無効であると判断されています。
それでは、会社は、その休職期間中の給料まで支払わなければならないのでしょうか。
社員の労災につき会社に責任(帰責性)がある場合には、その労災により社員が休職しても、民法536条2項により賃金請求権を失うことはありません。裁判例(東芝(うつ病・解雇)事件-最二小判平成26・3・24)でも、使用者の責に帰すべき事由により労働者が労務提供の意思を形成し得なくなった場合には、当然に民法536条2項の適用があると解すべきであり、業務上の疾病としてうつ病に罹患した原告労働者の状況は、使用者の責に帰すべき事由により労働者が労務提供の意思を形成し得なくなった場合に当たると判断されています。
したがって、本件も、当該社員のうつ病について会社に責任(帰責性)があれば、その休職期間中の給料も支払わなければなりません。
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