労働法務
2021.12.27
長時間労働でうつ病のリスクは?
- 当社の社員は、ここ6ヶ月ほど毎月残業が100時間超の長時間労働です。この社員がうつ病になってしまいました。会社は、どんなリスクがありますか?
会社は安全配慮義務違反を理由に損害賠償責任を負担しなくてはいけないリスクがあります。
裁判例(電通事件-最二小判平12・3・24)では、「使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負う」と判示され、さらに「使用者に代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は、使用者の右注意義務の内容に従って、その権限を行使すべきである」と判示されています。そのうえで、結論として、会社の健康配慮義務違反(健康配慮義務とは、会社に課せられる安全配慮義務の一種です。)を理由に、会社に対する損害賠償責任を認めました。会社が恒常的に著しく長時間にわたり業務に従事していることを認識しながら、勤務時間短縮措置等を取らなかったことを健康配慮義務違反としたのです。
なお、精神疾患に関する労災の判断基準を示した「心理的負荷による精神障害の認定基準」(平成23年12月26日基発1226第1号)において、発病直前の1か月におおむね160時間を超えるような時間外労働は「特別の出来事」として業務による心理的負荷が「強」と評価され、また、発病直前の連続した2か月間に1月当たりおおむね120時間以上の時間外労働を行ったり、発病直前の連続した3か月間に1月当たりおおむね100時間以上の時間外労働を行ったりした場合も、業務による心理的負荷が「強」と評価されることに留意する必要があります。さらに、1か月に80時間以上の時間外労働を行った場合も業務による心理的負荷が「中」と評価されています。
相談の内容も、1月の時間外労働が100時間を超え続けていますので、会社は安全配慮義務違反を理由に損害賠償責任を負担する可能性が高いです。
どうすればいいのか?
まず、会社は月80時間を目安として、労働時間の管理を徹底することが重要です。労基法36条1項の協定で定める労働時間の延長限度である1月45時間以下に管理することが望ましいです。
次に、社員や管理職等に対して、定期的にメンタルヘルス研修をすることを推奨します。テーマとしてはうつ病と長時間労働の関連性や具体的なメンタルヘルス不調の事例を紹介して予防策を学ぶことなどが挙げられます。
また、社員の健康管理のため、産業医及び衛生管理者を中心に健康管理に関する職務を適切に行うことが重要です。メンタルヘルスケアは、継続的かつ計画的に進めることが必要で、衛生委員会等で健康管理について調査審議を行うようにします。
さらに、健康診断で異常の所見がある場合には、健康保持に必要な措置についての医師の意見を聴き、事後措置(フォロー)をとることが重要です。特に、①時間外労働が月100時間を超えている、②疲労の蓄積が認められる、③本人が申し出ている、この3つの要件に該当していれば、医師の面接指導を受けさせる義務があります。また、時間外労働が月80時間を超えており、疲労蓄積が認められ、または健康上の不安を感じ、本人からの申出等がある場合には、医師の面接指導その他これに準ずる措置を実施する努力義務があります。会社は月80時間を超える長時間労働をしている社員については、時間管理や勤務状況の把握、疲労蓄積がないかなど、特別な健康配慮が必要です。
メンタルヘルスについては、沖縄の社会保険労務士法人堀下&パートナーズにご相談ください。
「労災疑いのあるうつ病の社員を休職期間満了で、自然退職できるか?」については、こちらをご覧ください。