労働法務
2022.01.26
新型うつ病を理由に休みたがる社員を休職させなければいけないか?
- 当社の社員が、医師の診断書を持参して、うつ病にかかったから3か月休職したいと言ってきました。しかしながら、医師の診断書は、病名が「うつ病」ではなく「抑鬱状態」であり、さらに「残業は控えるべき」との記載はありますが、「今後3カ月の自宅療養を必要とする」などの記載はありません。 この社員は以前から仮病による欠勤が多かったため、休職を認めませんでした。休職させなければなりませんか?
休職を認める必要はありません。
「新型うつ病」という言葉が定着してきました。
新型うつ病の特徴は、「問題があるとよく他人のせいにする」「うつ病になった原因を自分ではなく周りの(例えば家族や会社)せいにしがちである」「うつ病であることを周りに隠さず公言する」「嫌なこと(例えば仕事)をする時には症状が出るが、自分の好きなことをしているときは症状が出ない」などが挙げられます。
新型うつ病は誤解が多いですが、「仮病」とは異なりますので、その対応を誤って病状を悪化させたり、自殺を招いてしまったりすると、会社が安全配慮義務違反(労契法5条)による損害賠償責任を問われるリスクがあります。
しかしながら、医師の診断書等に照らし合わせて、うつ病か否かが明らかに疑わしい場合や自宅療養が必要でないことが明白である場合まで、社員の申告を鵜呑みにして従う必要はありません。休職に付するか否かはあくまで会社の判断によります。
過去の裁判例(N社事件-東京地判平24・7・18)でも、「原告(筆者注:労働者)が、平成19年ころからうつ症状を当時の上司に訴え、また被告(筆者注:会社)健康相談室で相談等していることが認められる」としながら、「診断書には、「今後3カ月の自宅療養を必要とする」との記載がない」ことや「産業医は、「長時間労働は× 休む程ではない」と記載していること」を理由として、「原告については、平成19年4月ころから平成21年6月の本件解雇に至るまで、労務軽減等の配慮が必要となる程度のうつ症状であったことを認めるに足りない」と判断されています。
どうすればいいのか?
前掲裁判例(N社事件-東京地判平24・7・18)では、「原告のうつ症状について、被告に何らかの義務を負わせる程度に重かったということは困難であり、被告が具体的な行動に出なかったことが、ただちに被告の何らかの義務違反を構成するものではない」と判示されていますが、労契法5条の安全配慮義務の観点からは、むしろ「具体的な行動」に努めましょう。
少なくとも、主治医への問い合わせは不可欠です。過去の裁判例(J学園(うつ病・解雇)事件-東京地判平22・3・24)でも、「被告(筆者注:会社)は、原告(筆者注:社員)の退職の当否等を検討するに当たり、主治医であるA医師から、治療経過や回復可能性等について意見を聴取していない。これには、F校医が連絡しても回答を得られなかったという事情が認められるが、そうだとしても(三者面談までは行わないとしても)、被告の人事担当者であるM教頭らが、A医師に対し、一度も問い合わせ等をしなかったというのは、現代のメンタルヘルス対策の在り方として、不備なものといわざるを得ない。」と判断されています。
したがって、このような社員の申し出に対しても、主治医と面談して、当該社員の病状は本当なのか、自宅療養まで必要であるか等について意見を聞く必要があります。さらに、主治医のほか、産業医や会社指定の医師の意見を聞いてもよいです。
メンタルヘルスについては、沖縄の社会保険労務士法人堀下&パートナーズにご相談ください。
「うつ病で休職。復帰希望だが、軽作業がない。解雇するリスクは?」については、こちらをご覧ください。