労働法務
2022.02.21
セクハラ防止体制の必要性と対価型セクハラとは?
- 新人の女性社員から会社に対して「上司から人事権をちらつかせられて、何度も夜の食事に誘われていました。断れずに夜、食事に行ったところ、無理やりキスをされました。これはセクハラです。うちの会社は、セクハラ研修も行われていません。セクハラ防止体制ができていない会社の責任です」と訴えがありました。セクハラでしょうか?どうすればいいですか。
セクハラの可能性が高いです。
本件は、「対価型セクハラ」に該当します。また、セクハラ研修を含めたセクハラ防止体制も不十分であり、会社が使用者責任を問われる可能性は非常に高いと考えられます。
セクハラとは、「相手方の意に反する性的言動」であり、①職場における性的な言動に対する労働者の対応により当該労働者が解雇、配転や労働条件につき不利益を受ける「対価型セクハラ」と、②職場における性的な言動により労働者の就業環境が害される「環境型セクハラ」に分類されます。
本件では、人事権をちらつかせて断れない状況をつくりだしたうえで性的行為に及んでおり、悪質なセクハラと言えます。
銀行支店長の女子行員に対するセクハラ行為について支店長の個人の不法行為の責任の他、銀行に使用者責任も認められた裁判例(京都地判平13・3・22)では、「職場における上下関係を背景に嫌がる社員をしつこく食事などに誘い、これを角の立つ形で断れば、自分の労働条件ないし労働環境の悪化を心配せざるを得ないというのっぴきならない立場に追い込み、精神的苦痛を与えたもので、典型的なセクシャル・ハラスメント」と認定されました。
同事件では、女性行員から相談を受けた課長が適切な対応を行うことがセクハラ対応を行うことができなかったため、「課長の対応の不適切さは、セクシャル・ハラスメント問題について特別な研修を受けたこともない課長としてはやむを得ないものであって、これは課長個人の問題ではなく、被告銀行全体のセクシャル・ハラスメント問題への取組姿勢の問題」として、会社の責任とされました。
セクハラは加害者による被害者に対する人格権を侵害する不法行為です。されに社内で起きたセクハラについては職務と密接に関連するものとされ、会社に使用者責任が生じます。
どうすればいいのか?
「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」(平成18年厚生労働省告示615号)に基づき、セクシャル・ハラスメントを防止するための措置は以下のとおりです。
①
セクハラがあってはならない旨の事業主の方針の明確化とその周知・啓蒙
②
相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
③
職場におけるセクハラに係る事後の迅速かつ適切な対応
④
相談や事後対応におけるプライバシーの保護、不利益取り扱い禁止の周知・啓発
これをさらに細分化すると次の10項目となります。
1.
セクハラに対する事業主の方針を明確に示す
2.
セクハラに対する事業主の方針を周知する
3.
セクハラに対して厳正に処罰することを示す
4.
セクハラの放置に対して厳正に処罰することを示す
5.
セクハラ相談窓口を設ける
6.
セクハラ相談に適切に対応する体制を整備する
7.
セクハラの事実関係の確認を迅速かつ適切にできる体制を整備する
8.
セクハラの事実関係確認後に適切な措置をとれる体制を整備する
9.
セクハラ再発防止措置を規定する
10.
セクハラ相談に対する不利益取り扱いを禁止する
使用者責任も認められた裁判例(京都地判平13・3・22)では、課長が「特別な研修を受けたこともない」ことが、「課長個人の問題ではなく、被告銀行全体のセクシャル・ハラスメント問題への取組姿勢の問題」と断じられています。セクハラ研修も含めたセクハラ防止体制を会社ぐるみで取り組んでいくことが重要です。
セクハラ防止体制の構築については、沖縄の社会保険労務士法人堀下&パートナーズにご相談ください。
「言葉によるセクハラと環境型セクハラの定義とは?」については、こちらをご覧ください。