労働法務
2022.03.08
パワハラと指導教育の境界はどこなのか? (パワハラと判断される場合)
- 「上司が部下に対して『ノルマが達成できなければ、人間ではない。死ね』など人間性を否定する発言を繰り返している」との訴えが複数の社員からありました。しかし、暴力行為は行われておらず、叱責を繰り返しているだけですので、なんら措置をするつもりはありません。むしろ、指導に熱心な上司として称賛しました。これって、指導教育ですか?パワハラですか?
パワハラです。
職場のパワーハラスメント(パワハラ)とは、職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの3つの要素を全て満たすものをいいます。
なお、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワハラには該当しません。
パワハラと指導教育の境界は、「従業員に対する注意、指導として社会通念上許容される範囲」を超えるか否かです。(三菱電機コンシューマエレクトロニクス事件-広島高松江支部判平21・5・22)です。
同事件では、「面談際に大きな声を出し、人間性を否定するかのような不当な表現を用いて叱責した点については、従業員に対する注意、指導として社会通念上許容される範囲を超えており、不法行為を構成する」と判断されました。
ザ・ウィンザー・ホテルインターナショナル事件(東京地判平24.3.9)では、パワハラで慰謝料が派生する基準について、「パワハラを行なった者とされた者の人間関係、当該行為の動機・目的、時間・場所、態様等を総合考慮のうえ、企業組織もしくは職務上の指揮命令関係にある上司等が、職務を遂行する過程において、部下に対して、職務上の地位・権限を逸脱・濫用して、社会通念に照らして客観的な見地からみて、通常人が許容しうる範囲を著しく超えるような有形・無形の圧力を加える行為をしたと評価される場合」としています。
パワハラと認定された言動の例を以下に挙げます。
パワハラと認定された言動の例
1
感情的になり大声で、「自分は面白半分でやっているかもわからんけど、名誉毀損の犯罪なんだぞ。・・・全体の秩序を乱すような者は要らん。うちは一切いらん。・・・何が監督署だ。何が裁判所だ。自分がやっていることを隠しておいて、何が裁判所だ。とぼけんなよ。本当に俺は絶対許さんぞ」などと叱責した。
三菱電機コンシューマエレクトロニクス事件(広島高松江支部判平21・5・22)
2
「意欲がない、やる気がないなら、会社を辞めるべき・・・」等のメールを上司が職場の同僚十数名に送信した。
A保険会社上司(損害賠償)事件(東京高判平17・4・20)
3
「ばかかお前は三曹失格だ」
海上自衛隊佐世保地方総監部(隊員自殺)事件(福岡高決平20・8・25)
4
「お前みたいなものが入ってくるんで、M部長がリストラになるんや」
日本土建事件(津地判平21・2・19)
5
「いいかげんにせいよ。お前。おー、何考えてるんかこりゃあ。ぶち殺そうかお前」と声を荒げた。
ファーストリテイリングほか(ユニクロ店舗)事件(名古屋高判平20・1・29)
6
「存在が目障りだ。居るだけでみんなが迷惑している。お前のかみさんも気がしれん、お願いだから消えてくれ」、「どこへ土馬されようと俺は甲野は仕事しないやつだと言いふらしたる」、「お前は会社を食い物にしている。給料泥棒」
国・静岡労基署長(日研化学)事件(東京地判平19・10・15)
7
「主任失格」、「お前なんかいてもいなくても同じだ」
名古屋南労基署長(中部電力)事件(名古屋高判平19・10・30)
パワハラか指導教育か、悩んだ場合については、沖縄の社会保険労務士法人堀下&パートナーズにお問い合わせください。
「盗撮は、解雇してよいのか?」については、こちらをご覧ください。