労働法務
2022.03.23
パワハラと指導教育の境界はどこなのか? (指導教育と判断される場合)
- 人事部長が社員に対して、「仕事は簡単なものを渡してペースを押さえているので、このままミスが減らないようでは、今の部署の業務を続けるのは難しい」、「分からなければ、分かったふりをせず何度でも確認してほしい」、「あなたには仕事を覚えようとする意欲が感じられません」という発言をしました。これって、指導教育ですか?パワハラですか?
パワハラではありません。 指導教育です。
パワハラと指導教育の境界線は、「従業員に対する注意、指導として社会通念上許容される範囲」を超えるか否かです。(三菱電機コンシューマエレクトロニクス事件-広島高松江支部判平21・5・22)です。
試用期間中に単純ミスを繰り返し直さない社員に対して指導し、時には激しい物言いをしたところ、社員が精神疾患による体調不良を理由に休職し、パワハラであると訴えた裁判例(医療法人財団健和会事件-東京地判平21・10・15)では、パワハラに該当しないと判断されました。同事件では、「Xの事務処理上のミスや事務の不手際は、いずれも、正確性を要請される医療機関においては見過ごせないものであり、これに対するAまたはB(看護師・保健師)によるその都度の注意・指導は、必要かつ的確なものというほかない。・・・Xに対して、時には厳しい指摘・指導や物言いをしたことが窺われるが、・・・業務上の指示の範囲内にとどまるものであり、到底違法ということはできない」と判示されました。
社員の人格権を侵害することなく、業務の範囲内の指導・叱咤督促目的の場合は、原則としてパワハラに該当しません。また、たとえ繰り返しの指導であったとしても、業務上の必要がある場合であればパワハラに該当しません。
医療法人財団健和会事件(東京地判平21・10・15)で会社が面談において行った指摘・指導の発言内容を参考までに紹介します。
医療法人財団健和会事件(東京地判平21・10・15)の発言
1
ミスが非常に多い
2
仕事は簡単なものを渡してペースを抑えているのに、このままミスが減らないようでは健康管理室の業務を続けるのは難しい
3
ミスがないように何度もチェックするなど正確にしてもらいたい
4
分からなければ分かったふりをせず何度でも確認してほしい
5
仕事を覚えようとする意欲が感じられない
6
仕事に関して質問を受けたことがない、学習してほしい
7
スタッフが電話対応や受診者対応をしているのに、何かやることはないかと話しかけるなど周りの空気が読めていない
8
周りも働きやすいよう配慮しているからXもその努力をすべき
9
頼んだ仕事がどこまで終わったのか報告せず帰宅するというのは改善すべき
どのすればいいのか?
1.問題に取り組む必要性と意義
パワハラは、労働者の尊厳や人格を侵害する許されない行為です。また、これを受けた人だけでなく、周囲の人、これを行った人、企業にとっても損失が大きいです。パワハラの予防・解決に取り組む意義は、損失の回避だけに終わりません。仕事に対する意欲や職場全体の生産性の向上にも貢献し、職場の活力につながるものととらえて、積極的に取り組みを進めることが求められます。
2.職場からなくすべき行為の共通認識の必要性
パワハラは、どのような行為がこれらに該当するのか、人によって判断が異なる現状があります。そのため、どのような行為を職場からなくすべきであるのかについて、労使や関係者が認識を共有できるようにすることが必要です。そこで、職場で行われる以下のような行為について、労使が予防・解決に取り組むべきこと、そして、そのような行為をパワハラと定義します。
職場のパワーハラスメント(パワハラ)とは、職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの3つの要素を全て満たすものをいいます。
なお、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワハラには該当しません。
※ 上司から部下に行われるものだけでなく、先輩・後輩間や同僚間などの様々な優位性を背景に行われるものも含まれます。
パワハラの類型としては、以下のものが挙げられます。
パワハラの6類型
①
身体的な攻撃
暴行・傷害
②
精神的な攻撃
脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言
③
人間関係からの切り離し
隔離・仲間はずし・無視
④
過大な要求
業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害
⑤
過小な要求
業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと
⑥
個の侵害
私的なことに過度に立ち入ること
3.どのようにしたら職場のパワハラをなくすことができるか
パワハラをなくすためには、以下のような取り組みが例として挙げられます。
パワハラを予防するために
①
トップのメッセージを発信する
②
ルールを決める
③
実態を把握する
④
教育する
⑤
周知する
パワハラを解決するために
①
相談や解決の場を設置する
②
再発を防止する
パワハラか指導教育か、悩んだ場合については、沖縄の社会保険労務士法人堀下&パートナーズにお問い合わせください。
「パワハラと教育指導の境界はどこなのか?(パワハラと判断される場合)」については、こちらをご覧ください。