労働法務
2022.05.16
パワハラの類型(⑥個の侵害)って何?
- 「お前が仕事できないのは、彼女が悪いんだ。そんな女とは別れろ」、「俺が見合いを紹介してやる」、「お前の私生活は全て俺に話せ」との発言を繰り返し、部下の携帯メールを勝手に見るなど、異常に部下の私生活に干渉している上司がいます。この言動はパワハラに該当するでしょうか?
パワハラです。
本件は、労務の遂行に関わりのない私的なことに過度に立ち入っており、パワハラに該当します。
厚生労働省では、パワーハラスメントの6つの類型の1つとして、「個の侵害」を挙げ、具体的行為として「私的なことに過度に立ち入ること」を挙げています。
社員のうつ病による自殺の原因が、課長の厳しい指導(パワーハラスメント)等に起因するものとされた名古屋南労基署長(中部電力)事件(名古屋高判平19・10・31)では、「結婚指輪を身に着けることが仕事に対する集中力低下の原因となるという独自の見解に基づいて、〇〇に対してのみ、8、9月ころと死亡の前週の複数回にわたって、結婚指輪を外すように命じていたと認められる。これらは、何ら合理的理由のない、単なる厳しい指導の範疇を超えた、いわゆるパワーハラスメントとも評価されるものであり、一般的に相当程度心理的負荷の強い出来事と評価すべきである」と判断されました。ダイエー事件(横浜地判平2・5・29)では、会社の取引先である家主と賃借人である従業員のトラブルにつき、上司が家主と和解するように強要したことが違法と判断されました。
「私的なことに過度に立ち入ること」は「個の侵害」であり、「人格権の侵害」であることを指導・教育することが必要となります。指導・教育を行なっても、なお、同様の行為を繰り返す場合には、懲戒処分を課すことを検討してください。
どうすればいいのか?
「業務の適正な範囲」は、「個人の受け止め方によって不満に感じる指示や注意・指導があっても「業務の適正な範囲」内であればパワハラに該当しない」されます。「業務の適正な範囲」は線引きが難しく、行為が行われた状況や行為の継続性によっても判断が左右されます。それぞれの会社や組織の状況によって「業務の適正な範囲」は異なります。会社や部署ごとに日頃から話し合いの機会を多く持つことが重要です。
また、「個人の受け止め方」は、人それぞれ異なります。さらに数十年前の常識と現代の常識とは異なります。自分が数十年前に自分が受けた指導方法をそのまま現代の部下に取り入れることが望ましいとは限りません。指導方法についての知識の向上を図ることは重要です。
平成15年大相撲のT部屋でリンチ殺人事件がありました。T部屋は「かわいがり」という指導の一環であったという主張をおこないました。T部屋によると「業務の適正な範囲」であったという主張です。パワハラを考察するにおいては、相撲部屋の「かわいがり」を反面教師にするとその対応が考えられます。T部屋が本心から「業務の適正な範囲内」の指導教育だと考えていてもそれが社会通念上認められるはずがありません。同様ことが閉鎖された会社の中で起きていないでしょうか。独善的な指導教育方法が社会通念ではパワハラに該当する場合があるということを重々教育することがパワハラを職場から撲滅させる方法と言えます。
パワハラで悩んだ場合は、沖縄の社会保険労務士法人堀下&パートナーズにお問い合わせください。
「パワハラの類型⑤(過小な要求)って何?」については、こちらをご覧ください。