労働法務
2022.06.13
タイムカードの代理打刻で解雇してよいのか?
- 当社の社員が、数分の遅刻をごまかすために数回,他の社員に頼んでタイムカードを代わりに打刻してもらっていたことが判明しました。 その社員は二度としないと泣きついてきましたが、懲戒解雇を言い渡しました。いいですよね?
懲戒解雇無効とされる可能性が高いです。
タイムカードの代理打刻により、事実上、遅刻、欠勤、残業時間を偽ることが可能であり、その結果残業代の水増し請求などの不正受給を発生させます。このような不正受給は、会社を欺罔して金銭を詐取する行為であり、刑法246条の詐欺罪に該当します。したがって、懲戒事由該当性は問題ないでしょう。
問題は、懲戒処分のうち、懲戒解雇までできるかです。
不正受給に関する過去の裁判例を分析すると、①不正受給の態様(故意か過失か、不正期間等)、②不正受給の金額、③過払手当の返済額、④反省の態度等によって、どの程度の懲戒処分まで許されるのかが変わります。
また、懲戒処分は、比較的軽いものから順に、①戒告、②けん責、③減給、④出勤停止、⑤降職・降格、⑥諭旨解雇、⑦懲戒解雇の7種類がありますが、初めての非違行為による懲戒解雇は、よほど重大な非違行為でない限り有効とならず、懲戒処分は軽度のものから重大なものへ段階的に行う必要があります。過去の裁判例(阪名中央病院事件-奈良地決昭55・10・6)も、タイムカードの不正打刻をした社員が「その年令・社会経験等からして未だ精神的に十分な発達を遂げている者とは考えられないのであるから、このような者を雇用する側としては、ある程度の寛容をもって被用者の指導にあたるべきことが期待され、懲戒を行うについても、就業規則に定めるもののうち、譴責から減給へ、減給から出勤停止へと軽度のものからより高度のものへ、段階を踏んで右権利を行使する配慮が要請されるものというベき」として、懲戒解雇処分が無効とされました。
本件も、懲戒処分歴がなければ、本人の反省の態度から、懲戒解雇処分が無効となる可能性が高いと言わざるを得ません。
どうしたらいいの?
社員の不正受給に対する懲戒処分は、前述のとおり、①不正受給の態様(故意か過失か、不正期間等)、②不正受給の金額、③過払手当の返済額、④反省の態度等によって、段階的に行うべきです。
なお、過去の裁判例(八戸鋼業事件-最一小判昭42・3・2)では、タイムカードの不正打刻を撲滅するために「出社せずして記録を同僚に依頼する如き不正ありし場合は依頼した者依頼された者共に解雇する。」との告示を掲示して全社員に周知徹底させていた事案で、不正打刻をした社員が「警告を熟知していたにもかかわらず、あえてこれを無視し、前記不正打刻に及んだ」ことから、「不正打刻をもって、ふとしたはずみで偶発的になされたものであるとする原審の前記認定は、極めて合理性に乏しく、他にこれを納得し得るに足る特段の事情の存しない限り、右の一事をもつて、直ちに本件懲戒解雇が懲戒権の濫用にわたるものとはなし得ないといわなければならない」と判断されています。
かかる裁判例からすると、タイムカードの不正打刻は厳罰に処することを周知徹底することにより、不正打刻をした社員に対する懲戒解雇処分が有効となる可能性が高まります。
タイムカードの代理打刻で解雇してよいか悩んだ場合は、沖縄の社会保険労務士法人堀下&パートナーズにお問い合わせください。
「社員が、行方不明なので退職手続きしてよいか?」については、こちらをご覧ください