労働法務
2022.06.20
通勤手当の不正受給した社員を懲戒解雇できるか?
- 社員が、約1年間にわたり、家まで遠くなるルートを会社に届け出て通勤手当の支給を受け、約6万円を不正受給していたことが発覚しました。 その社員は「深く反省している」と懇願しており、不正受給分も返還すると言っています。しかし、会社をだまして許せないので、懲戒解雇としました。いいですよね?
懲戒解雇無効とされる可能性が高いです。
通勤手当の不正受給は、会社を欺罔して金銭を詐取する行為であり、刑法第246条の詐欺罪に該当します。したがって、懲戒事由該当性は問題ないでしょう。
問題は、懲戒処分のうち、懲戒解雇処分までできるかです。
過去の判例を分析すると、①不正受給の態様(故意か過失か、不正期間等)、②不正受給の金額、③過払通勤手当の返済額、④反省の態度等によって、どの程度の懲戒処分まで許されるのかが変わります。
例えば、かどや製油事件(東京地判平11.・1・30)では、本件と類似の事案で、懲戒解雇が有効とされました。但し、この裁判例は、通勤手当の不正受給だけでなく、従業員の不誠実な勤務態度(出勤しても一日の大半は上司に無届けで離席して連絡が取れない状況になり業務を放棄していた等)も相まって懲戒解雇が有効とされたものであり、通勤手当の不正受給があれば直ちに懲戒解雇が有効になると断言はできません。
他方、シンガポール航空事件(東京地判昭55・2・29)では、交通費、接待費の虚偽報告、不正請求を理由とする懲戒解雇について、交通費については実際にこれに相当する支出を行っており、接待費の領収書流用についてはその額が少額であり、本人から詫びが入っていることから、懲戒解雇が無効とされました。
以上の裁判例を踏まえると、①不正受給期間が比較的短い②不正受給の金額が比較的低い③不正受給の金額を返還する意志がある④反省をしている等を勘案すると、本件事案では、懲戒解雇が無効とされる可能性は高いと言えます。
通勤手当の不正受給した社員を懲戒解雇できるか悩んだ場合は、沖縄の社会保険労務士法人堀下&パートナーズにお問い合わせください。
「タイムカードの代理打刻で解雇してよいのか?」については、こちらをご覧ください。