労働法務
2023.01.10
懲戒処分したことを公開してもよいか?
- 社内で暴力事件が起きました。当社は、その社員を「降格」の懲戒処分としました。そして、その降格の事実と名前を伏せて支店にファックスで通知しました。 ところが、その者から「懲戒処分を全社に知らしめたのは、名誉毀損である」と言われました。懲戒処分は、公開してはいけないのでしょうか?
「ブラック企業」の可能性は低いです。
民法によれば、事実を記載してある者の社会的名誉を貶めた場合、その事実が例え「真実」であったとしても、名誉毀損成立の余地があることになります(民法723条)。それゆえ、懲戒処分を行うと同時に、それを全社的に周知する行為は、名誉毀損として損害賠償請求を受けるリスクを伴います。
裁判例としては、損害賠償請求を認めたものと、否定したものの両方があり、結局のところ、個別具体的な判断が必要となります。
そして、本件と類似の、勧業不動産販売・勧業不動産事件(東京地判平4・12・25)では、「本件各懲戒処分が有効なものであることは前記のとおりであり、本件各懲戒処分が人事異動を伴う処分であること、通知の方法及び内容も社会的に相当なものであったことからすれば、被告らが営業所及び支店に本件各懲戒処分の事実を通知したことをもって、違法な行為ということはできない」と判示し、損害賠償責任を否定しました。
かかる判例の趣旨に照らせば、本件のように、「懲戒処分が有効」で、また「降格の事実」のみを周知しただけでは、その公表が違法とされる可能性は低いといえます。
どうすればいいのか?
しかし、他方で、懲戒処分の公表により、会社に損害賠償責任が認められている裁判例も複数存在します。(例えば、エスエイビー・ジャパン事件-東京地判平14・9・3、上智学院事件-東京地判平20・12・5など。)
前掲裁判例および、これらの裁判例から規範を抽出すれば、判断要素は以下の数点であるということが出来るものと思われます。
①懲戒処分の有効性
②処分公開の必要性
③処分公開の内容・方法の相当性
上記のうち、裁判例はまず①懲戒処分が有効と判断されることを前提として、その次に②および③を総合判断しているもの考えられます。従って、本件のような事例においても、懲戒処分の性質や、その公開の方法などが違えば、損害賠償請求が認められるリスクは十分に考えられます。
従って、「憂さ晴らし」あるいは「見せしめ」のような懲戒処分の公開は慎まれるべきものであり、懲戒処分の公開は、その必要性と意義に鑑みて、必要十分な程度の方法で行うべきものであるということが出来るでしょう。
懲戒処分したことを公開してもよいか悩んだ場合は、沖縄の社会保険労務士法人堀下&パートナーズにお問い合わせください。
「社員間の金銭貸し借りを禁止することはできるか?」については、こちらをご覧ください。