労務管理
2025.03.25
基本給とは
1. 基本給とは?その定義と法律上の位置づけ
基本給とは、企業が労働者に支払う賃金の基本となる部分を指すことが多いです。給与の中には様々な手当や賞与などが含まれる場合がありますが、基本給はそれらとは異なり、定期的に一定額が固定的に支給されます。
労働基準法第11条では「賃金」について定義されており、その中に基本給も含まれます。しかし、法律上「基本給」という用語そのものが定義されているわけではありません。一般的には、雇用契約書や就業規則に記載され、毎月固定で支払われる給与の主要部分として扱われます。
社会保険料の計算や賞与の支給額、退職金の算定にも基本給は基準として用いられることが多いです。
2. 基本給の決め方とその根拠
企業が基本給を決定する際には、いくつかの要素を考慮して決定されることが多いです。
2.1. 労働契約
基本給は労働契約によって定められます。契約書には、基本給の金額や支給方法が明記されていることが一般的には多いです。ただし、中小企業では、あまり検討されることなく決定されることも多いです。
2.2. 業種・職種
業種や職種によって、基本給の相場は異なります。たとえば、製造業では技能や資格に応じた賃金体系があることが一般的です。営業職ではインセンティブとのバランスを考慮する必要があります。
2.3. 地域性
最低賃金が地域ごとに異なるため、企業は最低賃金を下回らないように基本給を設定する必要があります。また、生活コストの違いも考慮するべき要素です。都市部では生活費が高いため、それに応じた給与水準が求められることがあります。
3. 法律上の基本給に関するルール
基本給に関して適用される主な法律は以下のとおりです。
3.1. 労働基準法
労働基準法では、最低賃金の遵守、賃金支払の原則(通貨払い・直接払い・全額払い・毎月1回以上の定期払い)が規定されています。基本給も当然これらの規定に従う必要があります。
さらに、労働時間、割増賃金(残業代・休日出勤・深夜勤務)についても規定があり、基本給はこれらの算出基準となるため、非常に重要です。
3.2. 最低賃金法
最低賃金法により、各都道府県ごとに定められた最低賃金額を下回る基本給の設定は禁止されています。なお、最低賃金には通勤手当や残業代などは含まれず、基本給や職務手当のような固定的賃金部分のみが対象です。
違反した場合は罰則が科されることがあります。
4. 基本給の決定に影響を与える要素
基本給を決定する際に影響を与える要素には、以下のようなものがあります。
- 企業の経営方針:高付加価値商品を提供する企業では、従業員のスキルを重視して基本給を高く設定することがあります。
- 労働市場の状況:求人倍率や失業率が影響を与え、採用競争が激しい業種では基本給が上昇しやすくなります。
- 従業員のスキルや経験:新卒者と中途採用者、または有資格者と無資格者、経験者と未経験者とでは、基本給の初期設定に差が出ることが一般的です。
- 物価やインフレの影響:物価上昇に対応するため、定期昇給やベースアップが行われることがあります。
5. 基本給とその他の手当の違い
基本給と手当は明確に区別されるべきものです。基本給は、従業員が業務を行うことに対する対価の基本部分であり、手当は特定の事情や条件に基づいて支給される加算部分です。
よくある手当の例:
- 通勤手当:交通費の補助として支給
- 住宅手当:家賃の一部を支給
- 資格手当:特定の資格保有者に対して支給
- 家族手当:扶養家族がいる場合に支給
これらの手当は、支給の有無や金額が企業ごとに異なります。こうした手当は、就業規則の賃金規程に整理されます。
6. 基本給の変更に関する法的要件
労働契約は「契約」ですから、契約当事者である会社と労働者の双方の合意がなければその内容である労働条件を変更することはできません。
労働契約法8条は、「労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる」と規定してこの原則を確認しています。
給料も労働条件の1つですから、給料の減額を行うためには、会社と従業員が合意をすることが原則です。
業績が悪化したからという理由で会社が労働者の合意を得ることなく一方的に給料を減額することは、違法です。
- 労働者の個別同意が必要:一方的な変更は無効とされる可能性があります。
- 就業規則の改定手続き:過半数代表者の意見聴取と、合理性が求められます。
- 不利益変更の合理性:業績悪化や経営困難といった高度に正当な理由が必要です。
逆に、引き上げについては、従業員にとって不利益ではないため、特別な同意がなくても実施できますが、就業規則への反映や社内通知は望ましいです。
7. 基本給の具体的な計算方法と事例
月給制の例
- 月給30万円
- 所定労働時間160時間/月
- 実働時間170時間
残業代を含まない基本給換算
時給換算 = 30万円 ÷ 160時間 = 1,875円
年俸制の例
- 年収600万円
- 賞与含む場合:月額報酬 = 年収 ÷ 14 = 約42.9万円
- 賞与含まない場合:月額報酬 = 年収 ÷ 12 = 50万円
※年俸制でも残業代の支払い義務が免除されるわけではないため、注意が必要です。
8. 基本給に関するトラブルとその対処法
8.1. 基本給の引き下げ
一方的に基本給を引き下げると、労働契約違反とされ、損害賠償や差額支給の請求が行われることがあります。基本給を引き下げたい場合は、事前に、労働者に説明し、納得を得て、合意書に署名・捺印をとることが重要です。
8.2. 賃金未払い
未払いが発生した場合、労働基準監督署への相談、労働審判、訴訟などの手段があります。労働者には3年間の時効期間があるため、迅速な対応が求められます。
9. 基本給の最新動向と今後の課題
9.1. 最低賃金の引き上げ
ここ数年、最低賃金の引き上げが継続されており、2023年度の全国加重平均は時給1,004円。企業はこれに対応するため、基本給の再設計や昇給制度の見直しを迫られています。
9.2. 同一労働同一賃金
正社員と非正規社員との待遇差の解消が求められており、基本給の設定にも影響が出ています。同一業務であれば、雇用形態にかかわらず公平な基本給の設定が求められています。
9.3. ジョブ型雇用の拡大
職務に基づく基本給体系(ジョブ型)が広がりつつあり、従来の年功序列型からスキル・成果重視の制度への転換が進んでいます。
10. まとめ
基本給は、労働者の生活の基盤を支える重要な要素であり、法律の枠組みの中で適正に設定・運用されることが求められます。企業にとっても、適正な基本給の設定は優秀な人材の確保・定着に直結するため、労務管理の柱として常に見直しと改善が必要です。
また、今後も最低賃金の上昇や多様な雇用形態への対応が求められる中で、基本給の在り方を柔軟かつ公平に設計することが、企業の成長と従業員の満足度の両立に繋がると言えるでしょう。
この記事の監修
社会保険労務士法人堀下&パートナーズ
社会保険労務士 堀下 和紀
お客様に寄り添い、法律知識だけでなく相手の立場を理解し、本当に求められる最適な解決策をご提供することを信念としています。
また、特定社会保険労務士として労働トラブルの解決に尽力し、経営者の経験を活かして実務と理論の両面からサポート致します。
略歴
1971年 福岡県生まれ
1995年 慶応義塾大学商学部卒業 明治安田生命保険相互会社勤務
(銀座支社・契約管理部・沖縄支社~1999年)
1999年 エッカ石油株式会社勤務
2005年 堀下社会保険労務士事務所
2021年 社会保険労務士法人 堀下&パートナーズ設立
主な書籍
・「労務管理」の実務がまるごとわかる本(日本実業出版社)
・ 社労士・弁護士の労働トラブル解決物語(労働新聞社)
他 14冊

社会保険労務士 堀下 和紀
主な活動
セミナー講師/テレビ出演/書籍、記事執筆