労働法務
2022.02.14
言葉によるセクハラと環境型セクハラの定義とは?
- 「上司から卑猥な言葉を長期間浴びせられています。セクハラです」と申告がありました。セクハラに当たるのでしょうか?
セクシャルハラスメントに該当する可能性があります。
セクハラとは、「相手方の意に反する性的言動」であり、①職場における性的な言動に対する労働者の対応により当該労働者が解雇、配転や労働条件につき不利益を受ける「対価型セクハラ」と、②職場における性的な言動により労働者の就業環境が害される「環境型セクハラ」に分類されます。
L館事件(最一小判平27・2・26)において、身体的接触を伴わなくても、言動だけでもセクハラに該当すると判断されました。環境型セクハラに該当します。
現代の労務管理の現場においても身体的接触がなければセクハラに該当しないという誤解が未だ蔓延しています。最高裁が言葉によるセクハラを具体的に認定した内容と判示の内容を以下に示します。
L館事件(最一小判平27・2・26)言葉によるセクハラの認定内容
1
自らの不貞相手に関する性的な事柄や自らの性器、性欲等についての極めて露骨で卑わいな内容の発言等を繰り返す
2
いまだ結婚していないことなどを殊更に取り上げて著しく侮辱的ないし下品な言辞
3
侮辱し又は困惑させる発言を繰り返し、従業員の給与が少なく夜間の副業が必要であることをやゆする発言
L館事件(最一小判平27・2・26)の判示
1
職場において1年余にわたり繰り返した発言等の内容は、いずれも女性従業員に対して強い不快感や嫌悪感ないし屈辱感等を与えるもので、職場における女性従業員に対する言動として極めて不適切なものであって、その執務環境を著しく害するものであったというべきであり、当該従業員らの就業意欲の低下や能力発揮の阻害を招来するものといえる
2
職場におけるセクハラ行為については、被害者が内心でこれに著しい不快感や嫌悪感等を抱きながらも、職場の人間関係の悪化等を懸念して、加害者に対する抗議や抵抗ないし会社に対する被害の申告を差し控えたりちゅうちょしたりすることが少なくない
3
管理職が女性従業員らに対して反復継続的に行った極めて不適切なセクハラ行為等が企業秩序や職場規律に及ぼした有害な影響は看過し難い
L館事件(最一小判平27・2・26)における上司の具体的言動
1
自らの不貞相手の年齢や職業を話、不貞相手とその夫との性生活の話をした。
2
「俺のん、でかくて太いらしいねん。やっぱり若い子はその方がいいんかなあ」
3
「夫婦生活はもう何年もセックスレスやねん。」、「でも俺の性欲は年々増すねん。なんでやろうな」
4
「この前、カー何々してん」と言い、「何々」のところをわざと言わせようとするように話を持ちかけた。
5
「今のお母さんよかったわ」、「かがんで中見えたんラッキー」、「好みの人がいたなあ」
6
「いくつになったん」、「もうそんな歳になったん。結婚もせんでえこんなところで何してんの。親泣くで」
7
「30歳は、二十二、三歳の子から見たら、おばさんやで」、「もうお局さんやで。怖がられてるんちゃうん」
8
「夜の仕事とかせえへんのか。時給いいで」、「一人暮らしの子はけっこうやってる。○○の子もやってる。○○の子とかもいてるんちゃう」と繰り返し言った。
9
男性名を複数名挙げて「この中で誰か1人と絶対結婚しなあかんとしたら、誰を選ぶ」、「地球に2人しかいなかったらどうする」
10
セクハラ研修の後「あんなん言ってたら女のことしゃべられへんよな」、「あんなん言われる奴は女の子に嫌われているんや」
どうすればいいのか?
セクハラによる被害を会社に申し立てがあった場合には、早急に現状を把握するために被害者、加害者に事業聴取などの措置をとる必要があります。
身体的接触を伴わなくても、言動だけでもセクハラに該当することを踏まえたうえで、セクハラ対策を行ってください。セクハラ対策におけるポイントは以下の4つです。
1.
就業規則等で方針の明確化
2.
研修などによる啓蒙活動
3.
苦情機関、相談窓口の設置
4.
セクハラが発生した場合の対応を定める
1つ目に、就業規則等でセクハラは厳罰に処する基本方針を明らかにすることが重要です。セクハラ行為の行った社員に対する解雇を有効と判断した日本HP社セクハラ解雇事件(東京地判平17・1・31)では、「管理職に向けてセクハラに関する法律等が遵守されるように周知徹底すべきことが告知されていたにもかかわらず、従業員がセクハラに及んだことについて、会社がセクハラ行為を行なった者に対して厳正な態度で臨もうとする姿勢には正当な理由がある」判示しています。
2つ目に、研修などの啓蒙活動を行うことが重要です。「セクハラは不法行為である」、「セクハラの当事者は多額の損害賠償を請求される」、「会社はセクハラの当事者に対して懲戒解雇を含む厳罰に処する」などの会社の強いメッセージを伝えることが必要です。
L館事件(最一小判平27・2・26)では、セクハラ研修を全従業員に義務付けていましたが、セクハラ行為を行なった上司はセクハラ研修の後、「あんなん言ってたら女のことしゃべられへんよな」、「あんなん言われる奴は女の子に嫌われているんや」と発言してたことが明らかになっています。漫然と研修を行うのではなく、よりセクハラ防止効果の高い研修を含む啓蒙活動を続けることが重要です。
3つ目に、実行可能性の高い苦情機関、相談窓口を設置することが重要です。L館事件(最一小判平27・2・26)では、会社に苦情機関、相談窓口が設置されていなかったことが上司による1年以上のセクハラ行為を野放しにした原因の1つと考えられます。
4つ目に、セクハラが発生した場合の対応を定めるが重要です。迅速・適切に対応しなければ、訴訟に発展し、会社が多額の損害賠償を請求されるおそれもあります。社会保険労務士や弁護士に相談することが重要です。
どのような行為がセクハラに該当するかについては、平成18年厚生労働省公示615号では、「労働者の主観を重視しつつも、一定の客観性が必要とされるため、被害を受けた労働者が女性である場合には『平均的な女性労働者の感じ方』を基準歳、被害を受けた労働者が男性の場合には、『平均的な男性労働者の感じ方』を基準とするのが適当である」とされています。具体的な言動について研修等を通じてセクハラに該当するかしないかについての社員全体の認識の統一が重要です。
セクハラについては、沖縄の社会保険労務士法人堀下&パートナーズにご相談ください。
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