労働法務
2022.07.20
横領が疑わしいが、横領の証拠がない場合でも解雇していいか?
- 社員Aが時々タクシーメーターを倒さずにお客さんを乗せて走り、その代金を着服している疑いが浮上しました。弁明の機会を付与したところ、社員Aは、「あくまでお客様に対してサービスを行っただけであり、その代金は貰っていない」と弁解しました。 社員Aの供述を崩し切るほどの証拠はありませんでした。しかし、当社は社員Aを懲戒解雇にすることを決めました。いいですよね?
懲戒解雇は無効とされる可能性が高いです。
本件は、社員が職務上不正な行為を行ったことについては争いがないものの、「領得」(りょうとく:自己のものにする目的で、他人の財物を取得すること)の意思については否認されているという事案です。そして、他の客観的証拠などから、社員の横領(着服行為)が立証できる場合には、その懲戒解雇が有効とされる可能性が高いとされます。
それでは、「領得行為」を完全には立証できなかった場合はどうなるのでしょうか。この点、不正な行為を行って、会社に損害を与えたという意味合いでは同じなのですから、懲戒解雇が有効となってもおかしくはないようにも思えます。
しかし、本件と類似の裁判例(安全タクシー事件-盛岡地判昭56・10・5)は、懲戒解雇を無効とする判断を下しています。 この判例の趣旨に照らせば、もし「Aさんの領得」という事実が認められなかった場合には、懲戒解雇が無効とされる可能性が高いです。
どうすればいいのか?
本件のような事例についても、「Aさんに領得の事実がなかった」という事情から直ちに懲戒解雇が無効とされるわけではなく、その回数の多寡や、会社に対して与えた損害の大きさ、そして、Aさんの反省の度合いによっては、懲戒解雇が有効とされる可能性も十分にあるともいえるのです。
結局、懲戒処分(懲戒解雇)というものは、事案の個別具体的な事情をつぶさに観察して、その総合判断に基づいて行うべきものといえます。(いわば、刑事裁判における有罪・無罪、および量刑を決める手続きと同じであるということが出来るでしょう)その際には、類似の先例等に照らし、自社の処分が重すぎることがないように、十分注意をすることが必要です。
あるいは、退職を勧奨して、これに同意させて会社を去っていただく方法をおすすめします。
横領が疑わしいが、横領の証拠がないとき、悩んだ場合は、沖縄の社会保険労務士法人堀下&パートナーズにお問い合わせください。
「横領が発覚!解雇の相当性はあるのか?」については、こちらをご覧ください。