Tips & Hints お役立ち情報

労働法務

2022.10.24

真実と異なる事実を外部に告発した社員を懲戒処分してよいか?

tag:
懲戒処分
「不正会計処理がある」として、当社を内部告発した社員がいます。当社が調査した結果たしかに、一部会計上に不備があることが判明したのですが、これはその数量および態様からして、明らかに過失によるものとわかるものであり、社員のいうように、悪意をもって不正な処理を行ったものではありませんでした。 この問題は、マスコミにも取り上げられ、当社は「悪意をもって不正会計を行う会社」として信用を失墜されてしまいました。当社は当該社員について、懲戒処分を検討しています。いいですよね?

真実と異なる事実を外部に告発した社員を懲戒処分することは、許されます。

社員が、会社の不正を外部に告発した場合、当該行為については、まず公益通報者保護法による保護を受ける可能性があります。 

すなわち、公益通報者保護法では、国民生活の安心や安全を脅かすことになる事業者の法令違反の発生と被害の防止を図る観点から、同法上の公益通報に該当する行為を行った従業員に対する解雇等の不利益な取扱いを禁止しています(公益通報者保護法第3~5条)。 

そして、同法にいう公益通報とは、「労働者が不正の目的でなく、その労務提供先またはその役員・従業員等について、公益通報者保護法の掲げる法令違反行為が生じていること、または、まさに生じようとしていることを、その労務提供先等の通報先に対して通報すること」を指します(公益通報保護法第2条)。この定義に該当する公益通報行為に対して、懲戒処分を課すことは、同法により無効とされることになります。 

他方で、内部告発行為といえども、その内容が虚偽であれば、同法による保護の対象にはなりませんここで、大阪いずみ市民生協(内部告発)事件(大阪地堺支判平15・6・18)は、①内部告発の根幹的部分が真実か、真実と信ずるに相当な理由があること、②告発の目的が公益性を有すること、③内部告発の内容が組織側にとって重要であること、④告発の手段・方法を総合考慮してその内部告発の要保護性を検討しており、本件を検討する上で参考になります。 

本件においては、「外形上明らかに過失と認められる経理上のミスについて、あたかも意図的に不正を行っている」と外部に通報し、会社の信用を貶めたというのですから、上記の「①告発の内容を真実と信ずるに相当な理由がなかった」と認められる可能性が高く、懲戒処分が有効とされる可能性が高いです。 

 

どうすればいいのか? 

他方で、仮に社員の内部告発行為が、公益通報者保護法上の公益通報に該当しないと判断されたとしても、懲戒処分についての一般法理による保護を受けることには注意が必要です。特に、懲戒解雇については、通常通り解雇権濫用法理が適用されることは留意しておくべきです。それゆえ、社員の内部告発に軽率な側面があった場合についても、情状によってはそれに対する懲戒処分、懲戒解雇が無効とされる可能性は十分に有り得ます。恣意的かつ感情的な懲戒処分は真に慎まれるべきでしょう。 

なおコンプライアンスの観点から、会社としては通報処理の仕組みを整備する必要があります。まず、通報を受け付ける窓口を設置し、従業員に幅広く周知させます。また、ある行為が法令違反行為に該当するか否か、どのような手続きで通報が処理されるのかなどの質問を受け付ける相談窓口を設置することも必要です。通報処理を行うにあたっては、通報者や通報の対象となった者(被通報者)の個人情報を取扱うことになります。通報を共有する範囲を限定するなど、通報処理に従事する者に個人情報の保護を徹底させることが必要です。 

 

真実と異なる事実を外部に告発した社員を懲戒処分してよいか悩んだ場合は、沖縄の社会保険労務士法人堀下&パートナーズにお問い合わせください。

「季節性インフルエンザ罹患で賃金を支払う必要あるか?」については、こちらをご覧ください。

人事・労務のパートナーとして、
最高の事務所を選択しませんか?

私たちは相談対応やアウトソーシングなどの
形の見えないサービスを提供しています。
それは必ずや報酬以上の
価値があるものと自負しています。
興味をお持ちの方は、
お気軽にお問い合わせ下さい。