労働法務
2023.06.19
パートに以前退職金を支払った。今回も支払うべきか?
- 当社ではパート社員には退職金制度はありませんが退職する予定のパート社員から「以前退職したパート社員は退職金が支給された。私にも貰う権利がある」と主張しています。確かに以前、1名のパート社員に退職金を支給した前例があります。その理由は、会社の都合で退職日を延長させたことと在職中の多大な貢献に対する特別な慰労の意味合いです。就業規則にも「パートの退職金は支給しない」と定めています。退職金支払わなくていけないでしょうか?
退職金は支払わなくてもよいです。
退職金規程がない場合は原則、退職金支払義務はありません。ただし、退職金規程がない場合や就業規則に退職金を支給しない旨の規定があっても慣行を根拠に退職金支払義務が認められる場合があります。退職金請求権の根拠となる退職金支給慣行については、慣行により退職金の支給条件が明確になり、それが当該労働契約の内容となったと認定し得ることが必要であるとするのが判例の立場です。
本件では、当該パート社員の退職金請求が認められる可能性は極めて低いでしょう。慣行により退職金請求が認められた吉野事件(東京地判平7・6・12)や学校法人石川学園事件(横浜地判平9・11・14)では、正式な退職金規程がないだけで、慣行がある程度書面化されていたり、慣行に基づく退職金の支給が十数人にのぼっていたりするなど、退職金の支払いが労使慣行と言える程度まで定着化していた事情があります。
本件は、以前に1名のパート社員に慰労金が支給されていますが、そのことだけで、パート社員の退職金の支払いが労使慣行として定着しているとは言えませんので、退職金支払義務はないと判断します。
どうすればいいのか?
パート社員に退職金を支給しない場合は、慣行化しないことです。就業規則の規定で明らかにすることは、もちろんですが、労働契約書についても「退職金は支給しない」ことを明示することです。パートタイム労働法6条では、パートタイム労働者を雇い入れたときは、速やかに「昇給の有無」、「退職手当の有無」、「賞与の有無」、「相談窓口」を文書の交付などにより明示しなければならない義務があります。賃金や退職金などの金銭に絡むことは、トラブルに発展する可能性が高いので、労働契約締結時などには、書面で明確に条件提示をすることです。
退職金について検討したい場合は、沖縄の社会保険労務士法人堀下&パートナーズにお問い合わせください。
「懲戒解雇にした社員の退職金を不支給として良いか?」については、こちらをご覧ください。