労働法務
2023.07.24
研修費を徴収してもよいのか?
- 当社では、入社1カ月間は、業務を一切行わず研修を行ないます。業務を行わず、給料だけを払っていますので、入社から1年以内に退職した場合は、給料1カ月分を研修費として返還してもらっています。よいですよね?
研修費の徴収は、損害賠償予定の禁止に該当し、違法です。
「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない(労基法16条)」と定めらており、これに違反した場合は、「6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する(労基法119条)」と定められています。
本来本人が費用負担すべき自主的な技能習得について会社がその費用を貸与し、単純に一定期間勤務すればその返還を免除するものであれば損害賠償予定の禁止に該当しません。(長谷工コーポレーション事件-東京地判平9・5・26)
これに対して、会社が自分の自社における能力開発の一環として業務命令で技能習得や研修を行わせ、その後の労働者を自社内に確保するためのものであれば損害賠償予定の禁止に該当します。(富士重工業事件-東京地判平10・3・1)
契約書が存在した場合であっても、研修が実質的に業務命令と判断される場合は損害賠償予定の禁止に該当します。
サロン・ド・リリー事件(浦和地判昭61・5・30)では、美容室とその従業員(給与約4万円)間で締結された、当該従業員が「勝手わがままに」退職した場合には従業員は美容室に対し採用時に遡って1カ月4万円の美容指導料を支払う旨の約定が、退職の自由を不当に制限するもので賠償予定の禁止に違反すると判断されました。
どうすればいいのか?
当該事案のような制度は即刻廃止しましょう。
実質的に業務命令で行わせる業務関連性の高い研修に関しては、自己負担ではなく、会社負担で行わせてください。損害賠償予定の禁止の規定が制定された趣旨は、戦前において封建的労働慣習の中で労働者の足止めや身分的従属の創出を防ぐためです。前近代的な制度でブラック企業と呼ばれることは得策ではありません。
研修費を徴収していいか悩んだら、沖縄の社会保険労務士法人堀下&パートナーズにお問い合わせください。
「一度提出した退職届は、撤回できるか?」については、こちらをご覧ください。