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労働法務

2023.07.31

就業時間中の事故の損害を全額賠償させてよいか?

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損害賠償 / 事故 / 損害金
当社の社員が、ルート営業の際、頻繁に交通事故を起こし、今回も前方不注視により交通事故を起こし、社有車を大破させました。社有車の時価は100万円でした。  会社としては、就業規則に「従業員が故意または過失により、会社に損害を及ぼした場合は、その損害を賠償しなければならない」と規定されていることを根拠にして、損害金100万円全額をその社員に責任を負わせました。月々5万円を給料から控除しています。いいですよね?

損害金全額をその営業社員に責任を負わせることは違法とされる可能性が高いです。

会社の損害の発生について社員に故意または過失があれば、会社は社員に損害賠償を請求できます。前方不注視による過失により社有車を大破するとの損害が発生したのであるから、会社はその営業社員に損害賠償を請求できます。 

しかしながら、業務に関連する損害については、必ずしもその損害全額を社員に負担させることはできず、①社員の過失の程度、②会社側の管理体制(事前措置、教育、任意保険、労務管理状況等)、③社員のおかれた状況(懲戒処分等を課されているか、社員の資力等)などに応じて、社員に請求できる賠償額が決まります。過去の裁判例も、会社が社員に請求しうる範囲の限度額について、損害額の4分の1(茨城石炭商事事件最一小判昭5178、損害額の5分の1(富隆運送事件名古屋地判昭59224)と判断しています。 

 

どうすればいいのか? 

社員に負担させる損害額を決定するに際しては、まずは社員の前方不注視が社員だけの責任であるか(物件事故か人身事故か、事故相手との過失割合など)を丁寧に聴取しましょう。事故相手に過失があれば本来事故相手に損害賠償請求を行うべきものであり、その損害額分は社員に対して責任を負わせるべきものではありません。 

また、その営業社員が普段から頻繁に交通事故を起こしているのであれば、会社は、その都度その原因を調査し、改善策を講じておくべきです。単なる社員の注意不足であれば社員教育を徹底し、改善が困難であれば配置転換も考慮すべきでしょう。その注意散漫の原因が長時間労働によるものであれば、至急人員を補充するなどして時間短縮措置を講じるべきです。このように平素から徹底した労務管理を行っていれば、いざというときに社員に負担させる損害賠償額の割合も高まってくるでしょう。 

さらに、社員の損害額を負担させるときは、その社員の経済的事情も聴取しておくとよいでしょう。なお、損害額をその社員の給料から天引きする際には賃金全額払いの原則(労基法24条1項本文)から慎重な配慮が必要です。すなわち、この原則から、会社が一方的に給料を控除することは許されず、給料からの控除はその社員の「自由な意思に基づいてなされたものであると認めるに足りる合理的理由が客観的に存在する場合」に限り許されます(日新製鋼事件-最二小判平2・11・26)。給料から天引きする際には、その社員と十分に話し合って、最終的に書面による承諾書を徴収しましょう。 

 

就業時間中の事故の損害を全額賠償させてよいか悩んだら、沖縄の社会保険労務士法人堀下&パートナーズにお問い合わせください。

「研修費を徴収してもよいのか?」については、こちらをご覧ください。

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