労働法務
2023.08.17
競業避止特約がある場合、競業避止義務違反で、損害賠償請求できるか?
- 退社した技術職の社員が、同業他社に転職していることが発覚しました。その者が独自の技術を取り扱う立場にあったことにも鑑み、個別労働契約によって「退職後2年間は同業他社に転職しない」という競業避止条項を入れており、その旨の誓約書も頂いていました。また、その代わりとして高額の退職金も渡していたのです。 この社員に対して、退職金の返還や損害賠償請求等の手段を講じようと思っていますが、いいですよね?
競業避止特約がある場合、競業避止義務違反で、損害賠償請求できる可能性が高いです。
(1)就業規則、あるいは個別労働契約等に競業避止条項が入っており、かつその定めが判例上「有効」と認められる場合
⇒差止請求、退職金減額請求、債務不履行に基づく損害賠償請求
(2)就業規則、あるいは個別労働契約に競業避止条項が入っていないか、あるいは入っているが判例の基準に照らし「無効」となってしまう場合
⇒不法行為に基づく損害賠償請求
このように、取り得る法的措置は「競業避止条項の存否およびその有効性」の結論によって変わることとなります。まず「競業避止条項の有効性」の基準について検討します。
競業避止条項については、それが労働者の職業選択の自由を制限することとなるものであることに鑑み、判例上無限定に認められるものではなく、「①退職後の競業避止の必要性」「②社員の退職前の地位・職務」「③競業禁止の期間的、職種的、地域的範囲の制限」「④代償措置の有無・程度」等を総合考慮し、社員の職業選択の自由を不当に害するものでないと認められてはじめてその有効性が肯定されます。
本件と類似の裁判例(フォセコ・ジャパン事件-奈良地判昭45・10・23)も「制限期間は二年間という比較的短期間であり、制限の対象職種は・・・比較的に狭いこと、場所的には無制限であるが、これは会社の営業の秘密が技術的秘密である以上はやむをえないと考えられ、・・・在職中、機密保持手当が債務者(著者注・社員)両名に支給されていたこと・・・の事情を総合するときは、本件契約の競業の制限は合理的な範囲を超えているとは言い難」いとしてその有効性を肯定していることから、本件の特約も有効と認められる可能性は十分にあるといえます。
そして、特約の有効性が肯定された場合には、前述の①差止請求、②退職金減額(返還請求)、③債務不履行に基づく損害賠償請求が考えられます。この3つの措置はそれぞれ要件が異なっており、③→①になるにつれて、要件が厳しくなっていくものといえます。
まず、③の請求については、特約の有効性を立証したあとは、損害の発生と額の立証を行えば足りると考えられます。
次に、②の請求については、さらに退職金減額条項が労働契約あるいは就業規則において定められていることが必要であり、また、退職金の性質に鑑み「過去の功労を大きく減殺し、抹消するほどの著しい背信性」が必要であるとされます(三晃社事件-最二小判昭52・8・9など)。
また、①の請求については、「当該競業行為により使用者が営業上の利益を現に侵害され、又は侵害される具体的なおそれがあること」が必要とされます(東京リーガルマインド事件-東京地決平7・10・16)。
これらの要件および効果に照らし、会社としては、個別具体的な事情に応じて、取るべき法的措置を検討する必要があるでしょう。
競業避止義務違反で悩んだ場合は、沖縄の社会保険労務士法人堀下&パートナーズにお問い合わせください。
「他社に情報提供した社員に、秘密保持義務違反で損害賠償請求できるか?」については、こちらをご覧ください。