労働法務
2023.09.11
マイナンバーを提出拒否する就職内定者を内定取り消しできるか?
- 当社では、内定者の必要書類として「マイナンバーを記載した書類」を掲げており、内定者の全員にマイナンバーを提供するよう求めているのですが、ある社員が「マイナンバーは危険である」として頑なに提供しようとしません。 当社はやむなくその社員の内定を取り消ししようと思うのですが、いいですよね?
マイナンバーを提出拒否する就職内定者を内定取り消しすることは、違法とされる可能性が高いです。
内定取り消し(解約権の行使)が有効となる為には、「その事情が、解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものであること」が必要となり、本件において「マイナンバーを提出しなかった」という事情が、上記の要件を充足するか否かが問題となります。現状で、定まった判例のない分野ですので、制度の趣旨や、他の事例との比較において結論を推測しなければなりませんが、マイナンバーの未提出のみで内定を取消すというのは、慎重になった方が良いと思われます。
その根拠の一つとしては、マイナンバー法の規定上、会社には国に対する社員のマイナンバーの提出が義務付けられていますが、従業員から会社に対するマイナンバーの提供義務は定められていないということが挙げられます。当該従業員の提出義務が、立法過程において作為的に除かれたという事実にも鑑みれば、そのような国会の意思を尊重する判断を、裁判所が行っても不思議ではありません。
また、根拠の二つ目としては、採用内定時の提出書類の未提出に関するもの、として問題状況が類似する「身元保証書の未提出」に関する判例(シティズ事件-東京地判平11・12・16)の規範が挙げられます。同判例において、懲戒解雇が有効とされた趣旨は、「会社の業種に照らし、身元保証書という書面の提出の必要性が高かったこと」にあり、仮に業種が変わって、そのような必要性が低かった場合には懲戒解雇が無効とされる可能性も十分存在します。
そして、一般の会社にとってマイナンバーを提出させる必要性が、「金融業における身元保証書を提出させる必要性」と同様である、というのはやはり困難というべきでしょう。
やはり、上記のような現状に鑑みると、マイナンバーの未提出のみで内定を取消すというのは、慎重になった方が良いでしょう。
どうすればいいのか?
従業員からマイナンバーの提出を受けられなかったからといって、会社に対して直ちに罰則が課されるわけではありません。また、マイナンバーの記載がない書面についても、受け付けてもらえないというわけでもありません。国税庁のHPに記載があるように、社員に対して提供を求めたうえで、それでもなお、提供を受けられない場合は、提供を求めた経過等を記録、保存するなどし、会社側の単なる義務違反でないことを明確にしておけば、会社としての最低限のリスク回避にはなります。
当面はこのような方法により、対応することが穏当です。
マイナンバーで悩んだ場合は、沖縄の社会保険労務士法人堀下&パートナーズにお問い合わせください。
「社員が顧客名簿を流用した場合、競業避止義務違反で、損害賠償請求できるか?」については、こちらをご覧ください。