労働法務
2021.11.19
定期昇進は、必ずしなければならないのか?
- ある社員が、人事考課において現状維持となったことに不満を述べ、「自分に定期昇進がないのはおかしい。昇進請求権があるはずだ」といっていますが、本当にそうでしょうか?
昇格(昇進)の判断は、人事権の一内容であることから、使用者側には広範な裁量が認められます(光洋精工事件-大阪高判平成9・11・25)。従って、原則として使用者に、労働者を昇進させる義務(労働者の側からみれば、昇進させてもらう権利)はありませんし、昇格させなかったことをもって、損害賠償の対象となることはありません。
ただし、例外的に「客観的で明確な条件のみに従って昇格・昇進が行われるような運用がされている場合」や「昇格が賃金と連動しており、昇格させないことが不当な目的をもった賃金差別であると実質的に認められるような場合」には昇進請求権が認められる可能性があると言われています。
例えば、ある裁判例においては、昇格試験において女性社員の合格率が全体として非常に低いものであったうえ、女性社員について男性社員に比し全体的に低い査定を加えて、結果的に昇格を行わせなかったという点を捉え、男女差別の意図に基づく賃金差別と同視すべきものというように解し、昇格があったのと同様の効果を認めたうえで差額賃金の支払いを命じています(芝信用金庫事件-東京高判平12・12・22)。また同様に、既婚女性であるという理由で、昇給・昇格につき差別を行った、という認定を行ったうえで不法行為に基づき差額賃金分の損害賠償請求を認めた裁判例も存在します(住友生命保険事件-大阪地判平13・6・27)。
つまり、昇格させないことについては、(降格・降給と違い)明確な理由が必ずしも求められるわけではないが、男女差別や組合差別等の不当な目的をもって、差別的な取り扱いをすることは、昇格・昇給の場面においても許されず、そのような場合、差額賃金支払い義務は免れ得ないということになります。
どうすればいいのか?
「客観的に明確な条件のみによって昇格を行うという制度」を採用している会社は少数でしょうから、結局「不当な差別的意図をもって、昇格・昇給差別(賃金差別)を行っている」と認定されないようにすることが重要です。
「不当な差別的意図をもった賃金差別と認められない」ためには、適切な人事考課制度の設計・運営を行うことが肝要です。
昇進については、沖縄の社会保険労務士法人堀下&パートナーズにご相談ください。
「降格による賃金減額は許されるのか?」については、こちらをご覧ください。