労働法務
2021.11.30
配転を拒否する社員を懲戒処分していいのか?
- 配転を言い渡しましたが、社員が拒否すると言っています。業務命令違反を根拠に懲戒処分しようと思いますが、いいでしょうか?
はい。懲戒処分可能です。
配置転換、いわゆる「配転」を行うためには、まずその前提として、労働契約上、あるいは就業規則上にその根拠が明記されていることが必要となります。
東亜ペイント事件(最二小判昭61・7・14)では「使用者は業務上の必要に応じ、その裁量により労働者の勤務場所を決定することができるもの」であるが、「転勤命令権は・・・これを濫用することの許されないことはいうまでもない」と判断しました。また、配転の濫用の判断としては、「①業務上の必要性が存しない場合」「②不当な動機・目的をもってなされたものであるとき」「③労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき」等の特段の事情がない場合は、権利の濫用にはあたらない、と判示しています。この裁判では「退任者の後継として適当な者が必要であった」という事情により「①業務上の必要性あり」とし、また「転勤による家庭生活上の不利益は、通常甘受すべき程度のもの」であるとして「③」を否定しました。
この判例の趣旨に照らせば、本件においても、配転が有効とされ、それに続く懲戒処分も(その相当性を失わない限りにおいて)有効とされる可能性が高いものといえます。
どうすればいいのか?
配転命令が有効か無効かの判断基準として、おおきなポイントとなるのが、「労働者の不利益」の程度です。労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであれば、権利の濫用となり配転は無効となります。それでは、どのような事情に注意して労働者の不利益を検討するべきでしょうか。
例えば、家族や本人が病気の治療中である場合には注意する必要があります。家族が病気の場合には、その社員が病気の家族の面倒を見ているのか、病気の家族の家計を支えているのかを確認し、本人が病気治療中の場合には、配転により病気治療に影響がきるかを確認しましょう。
また、配転によって育児介護に支障がでる場合にも注意する必要があります。転勤による通勤の長時間化により育児に支障が生じたとしても、育児上の不利益がなお通常甘受すべき程度のものであるときは、転勤命令は有効となります。しかし、平成13年改正の育児・介護休業法26条は、子の養育または家族の介護状況に関する使用者の配慮義務を定めていますので、育児介護に関する不利益は重視されている傾向にあります。育児介護に関する事情は十分に確認することを推奨します。
配転の拒否については、沖縄の社会保険労務士法人堀下&パートナーズご相談ください。
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