労働法務
2022.01.11
うつ病で休職。復職希望だが、軽作業がない。解雇するリスクは?
- 当社の社員は、うつ病に罹り私傷病休職中でしたが、休職期間満了直前に医師の診断書を持参して復職を求めてきました。 医師の診断書には「軽作業であれば復職可能」と記載されていますが、その社員の表情は未だに暗く、目の焦点も定まっていない様子で、とてもうつ病から回復したと思えません。当社の担当が直接主治医と面談し、業務内容を説明して本当に復職が可能であるか尋ねましたが、曖昧な回答しかありませんでした。 当社としては、精神的プレッシャーの強い業務しかなく、他に軽作業など思い当たりませんので、休職期間満了に伴い解雇を言い渡す予定です。リスクがありますか?
不当解雇のリスクは低いです。
休職期間満了時に休職事由が消滅していないときは解雇ないし退職扱いとする規定がある場合には、休職事由の消滅すなわち復職の要件(治癒)の存否は会社が判断することになりますが、その復職の可否の判断基準が争点となることがよくあります。
復職の要件である「治癒」について、裁判例(平山レース事件-浦和地判昭40・12・16)では「従前の職務を通常の程度に行える健康状態に復したとき」と解釈されていますが、さらにその後の裁判例(エール・フランス事件-東京地判昭59・1・27)には、「治癒の程度が不完全なために労務の提供が不完全であり、かつ、その程度が、今後の完治の見込みや、復職が予定される職場の諸般の事情等を考慮して、解雇を正当視しうるほどのものであること」を必要とするものもあります。
本件では、「治癒」に至ったとの評価は困難ですので、「休職期間満了に伴う解雇」もやむを得ないでしょう。
どうすればいいのか?
職種・職務内容が限定されていない社員の復職については、配転可能性も検討する必要があります。過去の裁判例(片山組事件-最一小判平10・4・9、東海旅客鉄道事件-大阪地判平11・10・4など)でも、「現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が十全にはできないとしても、その能力、経験、地位、当該企業の規模、業種、当該企業における労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らして当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができ、かつ、その提供を申し出ているならば、なお債務の本旨に従った履行の提供があると解するのが相当である」と判示されています。
また、休職期間満了に伴う解雇(復職の可否)を検討する上で主治医への問い合わせは不可欠です。過去の裁判例(J学園(うつ病・解雇)事件-東京地判平22・3・24)でも、「被告(筆者注:会社)は、原告(筆者注:社員)の退職の当否等を検討するに当たり、主治医であるA医師から、治療経過や回復可能性等について意見を聴取していない。これには、F校医が連絡しても回答を得られなかったという事情が認められるが、そうだとしても(三者面談までは行わないとしても)、被告の人事担当者であるM教頭らが、A医師に対し、一度も問い合わせ等をしなかったというのは、現代のメンタルヘルス対策の在り方として、不備なものといわざるを得ない。」として解雇が無効とされています。
以上の検討のうえ、それでもなお「治癒」したと認められない場合は、安全配慮義務(労契法5条)を遵守すべく、中途半端に復職を認めず解雇とすべきです。過去の裁判例(ニューメディア総研事件-福岡地判平24・10・11)でも、社員から再三復職を求められて会社が復職を認めたところ復職から5日後に突然死した事案について、会社の注意義務違反を認め、他方、当該社員が再三復職を求めていた事情をもって過失相殺を認めることはできないと判断されています。
メンタルヘルスについては、沖縄の社会保険労務士法人 堀下&パートナーズにご相談ください。
「休職と復職を繰り返す社員に退職勧告。そのリスクは?」については、こちらをご覧ください。