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労働法務

2023.03.07

能力不足の社員を解雇するために、どうしたらいいのか?

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解雇 / 能力不足

前掲エース損害保険事件(東京地決平13・8・10)は、「労働能力が著しく低く会社の事務能率上支障があると認められたとき」を理由になされた解雇が有効となるための考慮要素として、以下の事情を列挙していますので、非常に参考になります。 

  1. それが単なる成績不良ではなく、企業経営や運営に現に支障・損害を生じ又は重大な損害を生じる恐れがあり、企業から排除しなければならない程度に至っていること 
  2. 是正のため注意し反省を促したにもかかわらず、改善されないなど今後の改善の見込みもないこと 
  3. 使用者の不当な人事により労働者の反発を招いたなどの労働者に宥恕すべき事情がないこと 
  4. 配転や降格ができない企業事情があること 

1 ①著しく労働能力が劣っていることの証拠化 

まず、①「企業経営や運営に現に支障・損害を生じ又は重大な損害を生じる恐れがあり、企業から排除しなければならない程度に至っていること」について、この表現はやや厳格過ぎるきらいがありますが、多くの裁判例(前掲セガ・エンタープライゼス事件-東京地決平11・10・13など)では、少なくとも「平均的な水準に達していないというだけでは不十分であり、著しく労働能力が劣っていること」まで要求しています。後日「著しく労働能力が劣っていること」を立証できるように、日常の労務管理において、日報、クレーム報告書、社内議事録、面談記録、本人の始末書、顛末書、反省文など書面化する必要があります。また、人事評価制度も、絶対評価や多角的評価等能力不足が明確になるように工夫する必要があります(前掲セガ・エンタープライゼス事件参照)。 

2 ②指導・教育・研修とその証拠化 

次に、②「是正のため注意し反省を促したにもかかわらず、改善されないなど今後の改善の見込みもないこと」が必要ですが、要するに指導・教育・研修により能力不足を解消して解雇を回避する努力が求められています。後日これらの指導・教育・研修を立証できるように、日常の労務管理において、注意書、指導書、メール、社内議事録、面談記録、研修の受講書など書面化する必要があります。 

3 ③不当な人事を行わないこと 

 また、③「使用者の不当な人事により労働者の反発を招いたなどの労働者に宥恕すべき事情がないこと」が必要です。前掲エース損害保険事件(東京地決平13・8・10)では、「本件配転は、リストラの一環として全社員の配置を一旦白紙にして配置し直すという目的で短時間で実行されたもので、本人の希望や個々具体的な業務の必要を考慮したものではなく、かつ結果としても債権者(筆者注:社員)らにとって適切な配置ではなかった」ことも解雇を無効とする一事情としています。前掲セガ・エンタープライゼス事件も、最終的には、バソナルーム勤務(所属は未定で特定の業務はなく、私物の持込みは禁じられるとともに、みだりに職場を離れない、外出するときは人事部へ電話連絡をするといった条件が付されていた)を命じており、このような事情も解雇の無効に影響したものと思われます。 

社員に不当な人事を行い、社員のモチベーションを下げることは厳に慎むべきです。 

4 ④配転や降格を検討すること 

 さらに、④「配転や降格ができない企業事情があること」が必要です。要するに配転や降格により解消して解雇を回避する努力が求められています。片山組事件(最一小判平10・4・9)では、「労働者が職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した場合においては、現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が十全にはできないとしても、その能力、経験、地位、当該企業の規模、業種、当該企業における労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らして当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができ、かつ、その提供を申し出ているならば、なお債務の本旨に従った履行の提供があると解するのが相当」と判示されていますので、参考にしてください。

5 特殊な労働契約の場合 

即戦力と期待された中途採用や職務上の地位を特定した労働契約については、その当初の採用過程を考慮して、②指導・教育・研修や④配転や降格を求められない可能性が高いです。その特殊な能力を前提とした労働契約の場合、当初の労働契約自体がこれらを想定していないからです。ただし、応募条件や採用時の労働契約書に期待される能力や職務上の地位を明示すべきですし、またそれに見合う高待遇が必要となります。 

 また、試用期間中の本採用拒否(留保解約権の行使)は、通常の解雇より広い範囲における解雇の自由が認められますが、「いったん特定企業との間に一定の試用期間を付した雇用関係に入った者は、本採用、すなわち、当該企業との雇用関係の継続についての期待を有するのであって、このことと、上記試用期間の定めの趣旨、目的とを併せ考えれば、試用期間中の解雇は、客観的に合理的な理由が存し、社会通念上相当と是認される場合にのみ許される」(ブレーンベース事件-東京地判平13・12・25など)ため、一定程度の②指導・教育・研修が免除されるわけではないので留意が必要です。 

6 退職勧奨の検討 

いずれに雇用形態であれ、まずは解雇する前に退職勧奨することを推奨します。話し合いがうまく進めば当該社員は退職勧奨を承諾し、円満に解決するかもしれません。また、退職勧奨の際に一定額の解決金の支給を打診するとより効果的でしょう。 

解雇が無効となるリスクを考えれば、この程度の金銭的負担で解決できれば安いほうです。退職勧奨する場合は、お互いの認識一致とトラブル防止ために必ず「退職合意書」を取り交してください。 

能力不足の社員の解雇を検討したい場合は、沖縄の社会保険労務士法人堀下&パートナーズにお問い合わせください。

「試用期間中の能力不足社員の解雇は有効か?」については、こちらをご覧ください。

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